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第53号: 電子レンジはどのように食品を温めるのか(その1)

 人類が火を発見してから、食べ物は加熱した方が安全でおいしいことに気づき、様々な加熱方法を工夫してきました。火で加熱する方法は火傷や火事の危険性があるので、火を使わない加熱方法も開発されました。その一つに電波を用いて加熱する方法、つまり電子レンジがあります。電子レンジは比較的短時間で加熱することができるので、家庭はもちろん、スーパーやコンビニ、デリやレストランで広く利用され、工場などでは部屋ぐらいの大きさの電子レンジが使われています。
 電子レンジがどのように食品を温めるか疑問に持つ人もいるでしょうが、この現象を理解するには、原子と分子、熱と温度、電荷と電磁波に対するある程度の理解が必要です。それをひとつひとつ説明してみましょう。(やさしく解説することを目的としていますので、現象を過度に簡略化、場合によっては正確でない部分もありますがご了承下さい。)

分子と電子

 食べ物に限らず多くの物質は原子と原子が結合した分子で構成されています。原子は、中心のプラスの電荷(電気)を持った原子核の周りを、マイナスの電荷を持った電子が運動している構造をしています。プラスの電荷とマイナスの電荷は、磁石のように、お互いに引き合う性質があります。そこで、いくつかの原子核(プラスの電荷)がいくつかの電子(マイナスの電荷)を介して、互いに引き合って、ひとつの固まり、分子ができます。つまり、いくつかの原子が互いの電子を共有してひとつの分子になるということです。

 分子は、いくつかのプラスの原子核の周りを、いくつかのマイナスの電子が運動している構造なのですが、電子が原子核の周りを均等に運動しているとは限りません。分子によっては電子が偏って運動し、分子にマイナスの部分とプラスの部分ができてしまう、つまり分極している分子もあります。代表的な物に、1個の酸素原子と2個の水素原子が結合した水があります。水分子の原子核の周りを運動する電子は、酸素側に偏って運動しているので、酸素側がマイナス、水素側がプラスに分極しています。
 水の分子が分極していることが、水の性質に強い影響を与えます。水分子は比較的に軽い分子なのにもかかわらず、地球上の平均的な気温で液体の状態でいられるのは、水分子のプラス側が別の水分子のマイナス側と互いに引き合うからです。この水の性質が、地球上の生命誕生に役立ったのは間違いないでしょう。生物を構成している主な分子は、炭化水素(炭素と水素の原子が結合した分子)の高分子(大きい分子)と水分子です。しかも水分子の割合が数、重量ともに大きいのが普通です。もちろん食品や人体も生物です。

「図解入門 よくわかる物理化学の基本と仕組み」,潮 秀樹,秀和システム

「図解入門 よくわかる物理化学の基本と仕組み」,潮 秀樹,秀和システム

参考文献

「図解「物理」は図で考えると面白い 」,瀧澤 美奈子 ,青春出版社.
「医歯薬系の物理学―からだと生命の基礎原理」 ,林 一,丸善.
「医歯系の物理学 」,赤野 松太郎,東京教学社.
「図解入門 よくわかる物理化学の基本と仕組み」,潮 秀樹,秀和システム