食のいま
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第63号: 「獺祭早田(だっさいはやた)」開発秘話‐二酸化炭素マイクロナノバブルの実用化‐

 「獺祭早田」は、旭酒造株式会社(以下、旭酒造)の清酒「獺祭」と私の恩師である故 早田保義先生(明治大学教授、元広島県立大学教授)の「早田」から名付けられた加圧二酸化炭素を使った世界初の製品です。
 清酒は米のデンプンを糖に変えるため「麹菌」、雑菌の繁殖を抑えるためにpHを下げる「乳酸菌」、糖をアルコールに変える「酵母」と様々な微生物が働くことで造りだされる世界に類を見ないアルコール飲料です。発酵を終え搾ったばかりの生酒はフレッシュな香味が特徴ですが、生酒中には麹菌由来の酵素や「火落菌」と呼ばれる乳酸菌の一種が存在し、生酒の品質を悪くします。特に、アルコールオキシダーゼは5℃でも活性を持つ酵素なので、冷蔵保存していても生酒中のアルコールをアルデヒドに変化させ香りを悪くします。そのため、通常は65℃で3分程度の加熱処理「火入れ」により生酒中の酵素と火落菌を失活していますが、その熱により生酒のフレッシュ感は減少してしまいます。
 加熱に替わる殺菌・酵素失活技術として、加圧二酸化炭素を使った方法が50年以上前から世界中で研究され、いくつかの装置が開発されましたが、食品の製造・販売は行われていません。私は大学3年生の時に卒業研究のテーマとして「超臨界二酸化炭素による殺菌・香気成分の抽出」を当時の指導教官である故 筬島豊先生(九州大学名誉教授、元九州女子大学学長、元広島県立大学教授)から与えられ、その後、武藤徳男先生(県立広島大学名誉教授)、早田先生の下でこの研究を続け、2007年に早田先生と共に二酸化炭素マイクロナノバブル装置を開発し(特許第5131625号)、さらに発展させました(特許第5716258号)。私が2010年に本学に着任した約半年後から旭酒造と二酸化炭素マイクロナノバブルを清酒の殺菌・酵素失活に利用するための共同研究を開始しました。しかし、2011年に早田先生が逝去され研究の継続が危ぶまれましたが、何とか継続することができ、2013年に旭酒造と新たな特許を出願しました(2017年に権利化)。その際に、「人間の体温付近に清酒の品質を悪くする温度帯がある」ことを旭酒造の桜井会長から教えて頂いたことが大きなヒントになり研究が発展しました。この成果を元に、2016年から二酸化炭素マイクロナノバブル技術を利用することで熱を極力加えずに殺菌・酵素失活した「獺祭早田」の製造・販売が開始されました。


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