この一冊
前へ戻る
image
ブリューゲルの食風景を歩く
宗任 雅子 (近代文芸社1994)

ブリューゲルの食風景を歩く

宗任 雅子 (近代文芸社1994)
2009/2/15更新 200903号
「冬景色から聞こえてくるその声が、なぜ怖いのか」

ブリューゲル。もちろん、画家の名前である。例えば『バベルの塔』(最近では金城武くん主演の映画『K-20』にも登場)などが有名である。

なぜこの本が当館にあるのだろう。「食」とついていれば何でもいいのかしら。彼の絵を知らなければ、内容がちょっと見えない本だ。

本書で取り上げられている絵はおもに「農民の生活を描いた絵」。これは、ブリューゲルが描いた中世の農民の姿から、現代の我々をふと省みて、時にはちょっとぞっとして考えさせられてしまう、そんな本である。

ブリューゲルの絵は、描写が細かい。本文でも触れられているが、一時期流行した「ウォーリーを探せ!」を彷彿とさせるような絵もある。美人画や単純な風景画と違って、なぜこの題材なのか、と悩む絵すらある。そこで著者は、描かれているわかりにくい事柄について、独自の視点も交えながら丁寧に解説してくれる。

去年発行された『怖い絵』という本をご存知だろうか。ドガやティントレットといった、一見うつくしい名画の、こわ~い見方を紹介してくれる本で、ちょっとした話題になった。この本でも、もちろんブリューゲルは取り上げられている(題材は『絞首台の上のかささぎ』)。

ブリューゲルの絵は、耳をすますと、低い声が聞こえてくるような絵なのである。
ただ、その声は我々にはわかりにくい。中世ヨーロッパの生活習慣や価値観は、現代日本とは違いすぎるのだ。

最初の章で取り上げられた『雪中の狩人』では、絵に描かれた真冬の猟の光景から、それに伴うであろう動物の屠殺の工程が描写され、グリム童話の初版のみに収められた『子供たちが屠殺ごっこをした話』が紹介され、だんだんと「農耕民族と狩猟民族の違い」という主題に近づいていく。著者が幼い頃に見聞きした、自宅の鶏をさばいた日本の一家の話も登場する。

絵の中に描かれた猟犬が十三匹で、その不吉な数字は不猟を示すというトリビアで始まる文章は、やがて静かに著者自身の思いを語っていくのである。

「飽食」など現代の社会問題や、食文化や宗教の違い、農業や畜産業のあり方、食の変遷などについて…母として子育てもした著者が選んだテーマはどれも、本学の学生が真面目に考えるのに相応しい。

つまり、ブリューゲルのトリビア本と読んでもよし、中世ヨーロッパに関するエッセイと読んでもよし、真面目な文化比較の本と捉えてもよし、「ちょっと怖い本」として覗いてみるのもよし。

なかなかお得な一冊ではないだろうか。


図書館 司書 関口裕子