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「この一冊」 図書のご紹介

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この本の分類は490.7。このあたりに医学論文の書き方の本があるんです。
もちろん英語学習の本もあり。新着雑誌架横、分類は830.7。TOEICの本とかです。
利用してください!

医療英語がおもしろい

山田政美 ・ 田中芳文 著 (医歯薬出版)
2009/3/1更新 200904号
「チーム・バチスタは“スワンを浮かべる”??」

ちょっとばかり、特殊な医療英語辞典である。
副題に「最新Medspeakの世界」とあり、医療に関する略語や俗語、新語、薬や病院などの固有名詞やその俗称を扱っている(内容はほぼアメリカ限定)。日本版で言うなら…「AED」「生食(生理食塩水)」「新型インフル」「コンタミ」「ヒヤリ・ハット」「正露丸」「メンタム」「ジェネラル・ルージュの凱旋」「財前五郎」などが並んでいる辞典、とでも思ってください(もっといい例がありそうだけど)。

これはどんな人に役立つだろうか? これからアメリカ留学する人?
確かに、アメリカに住む予定の人は読んでおくといいかもしれない。日常に医療関係の名詞は欠かせないから、代表的な病院や市販薬など知っていて損はない。Mass Generalと言われても何のことやらだが、これはMassachusetts General Hospitalという超有名病院のことだ。日本でも「日赤」とか略称で通用するから同じかな。

あとは? そう、『ER』などのドラマやP・コーンウェル等の小説が好きな人にもオススメである。例文も多いし出典リストもあるから、読みたい作品も見つかるかもしれない。
また、代表的なアメリカ医療ドラマも記述されている。意外に役に立つと思う。日本でも「ブラックジャック」と言えば最早「天才医師」の代名詞で、日常でも使われる。会話についていくには、ある程度こういった知識が必要だが、なかなかまとまったデータにはなっていない。そういう意味では、この本はありがたい。

また例えばCPR<心肺蘇生>の項では、The New England Journal of Medicineに掲載された論文が紹介されている。なんと、実際よりドラマの方が心肺蘇生術の成功率が高いことから、視聴者に誤解が生じることについて論じているらしい(いろいろな論文がある!)。
こうやって、ついつい読破してしまうような辞典なのだ。
だからこそ、貸出可能の一般図書であるのがうれしい(通常、辞典は禁帯出で貸出不可) 。借りて帰ってじっくり読んでいただきたい。

面白いことに、読むうちにアメリカの赤裸々な現実が見えてくる。Granny Dropというのは、要介護のお年寄りを休暇前に救急に置き去りにすること(!)とある。類語もあるので特殊な事例ではないのだろう。日本を省みるうえでも、この種の情報は貴重だ。例えば載っている市販薬をつらつら眺めているだけでもいい。日本とどう違うだろうか?

言葉は生き物である。ましてや医療関連。日々変わっていく。医療フィクションが尽きない筈だ。それらは地味であれ、突飛であれ、ときに残酷であれ、誰にとってもまったくの他人事ではないからだ。

ちなみに「スワンを浮かべる(float a swan)」とは、「スワン・ガンツカテーテルを装着すること」。『チーム・バチスタの栄光』で一気に有名になった。英訳版で使われるかな?


図書館 司書 関口裕子