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「この一冊」 図書のご紹介

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鉄道ひとつばなし3

鉄道ひとつばなし[シリーズ]


原武史(講談社現代新書 2003年より)
2012/03/16更新201206号
分類番号は081。なんと1996年から続いている名物連載、しかも書き手は政治思想史の学者! 鉄道のマニアではないと毎回断り書きがあるコイツはいったいどんな本? 2003年に出た最初の巻から一挙に3冊を大解剖!

その1.鉄道オールウェイズ!

平成生まれの学生さんには、映画『オールウェイズ』の世界ぢゃないか?! 手動のドア、木製の床や壁…1975年まで中央本線新宿駅にもこんな客車が来たという。ボックス席に陣取り、曇った窓から外を眺める小学生。2巻「国鉄と昭和」を読むと、この子の将来が思いやられる。いえ、リッパな学者になりましたが、鉄道好きは変わりませんでした。

その2.恋する鉄道

そんな著者、“マニアが歩むべきコースは一通り試みた”が大学進学までに断ち切った! 女子の目もちゃんと気にしてたのだ。2巻「消えゆく急行列車」で、高校2年の著者は西鹿児島行き急行「かいもん」に乗り、ボックス席の前に座ったOLに話しかけようと心を砕く。微笑ましいなぁ。女性の鉄道好き“鉄子”に寄せるコメントも多発の本シリーズは、誰が読んでも面白いと思う。女子よ、来たれ、鉄道の世界へ。

その3.御召列車って知ってるかい

しかしマニアじゃないとか言っちゃって、実は高校1年の夏休みに北海道の国鉄全線を制覇した著者だ。本業は政治学者である!近代史、特に皇室に関する深い造詣にはシビれる。御召列車、原宿宮廷駅、御料車…トドメはつくばエクスプレスのしかも通勤型車両が使われた2008年のつくば行幸(3巻「現天皇、通勤型電車に乗る」)であろう。切り口が見事。

その4.いやぁ、堂々、日本史

明治の創世記から、鉄道は姿を変え、路線を変え、ダイヤを変えて常に人々と共にあった。政治史を究める傍らで、大好きな鉄道に思いを馳せ続けた著者の視点はハンパない! 1巻「北千住と綾瀬の間」に唸らされる。坂口安吾が車窓から刑務所(!)に目を凝らしたこの区間で、10年後、当時の国鉄総裁が死体で発見された。そしてさらに40年後、この区間に乗っていたオウム真理教の幹部が向かった先は…たった2ページが超クール。

その5.鉄道はおいしい

おいしい記述が各所に光る。いちいちお目が高いです!かつての“名駅弁”“駅そば名店”について読んでいると、まるで明治の歌舞伎俳優か、野球史にとどろく名選手の活躍を偲んでいるようだ。3巻「消えた駅弁」は、もっと早く読みたかった。しくしく。

その6.妄想鉄道

そしてこの方、けっこうイイ感じにハジケてくれるぞ! 1巻「仙台→京都殺人ルート」の時刻表トリックに遊びゴコロあるなとは思ったけれど、2巻「鉄道趣味界の「四天王」」では宮脇俊三や嵐山光三郎のパスティーシュはやるわ、『OUT』や『失楽園』を鉄道で斬るわ、やってくれるじゃん! そして全国の鉄道“本人”が集ってそれぞれ方言でしゃべりたおす「日本の鉄道全線シンポジウム」(2巻)、「日本の廃線シンポジウム」(3巻)は爆笑もの。しかしさらなるオススメは、健御名方神が諏訪神社から兄・事代主神のいる三嶋神社に“列車で”向かう「健御名方神の逃走」。あまりのシュールさにもうファンレターを書こうかと思った。

はい、もちろん昭和の鉄道風景だけでなく、平成のいまに生きる各所の鉄道について、あるときは旅行記、あるときは評論として、時には海外の鉄道についても、じっくりしっかり読ませます。春休み、ぜひどこかに鉄道でおでかけになりませんか。駅弁と、このシリーズを膝に乗せ、車窓からニッポンを眺めに、いざ出発。

図書館 司書 関口裕子