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「この一冊」 図書のご紹介

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英国フード記 AtoZ

英国フード記 AtoZ


石井理恵子 著 松本里美 版画(三修社 2006年)
2012/08/01更新201214号
分類番号は383.8。これを書いているいま、ロンドン五輪真っ盛りである。応援に渡英している方はおられるだろうか。もっと先にご紹介すればよかったなぁ。英国滞在がより濃ゆいものになること、請合いだったのに。

「そんな食べ物もあったんだ…」
これが読後の第一感想。フィッシュ・アンド・チップスとか、ビミョウな味のピクルスとか、キドニーパイとかシェパーズパイとか、ひととおり知ってるつもりだったけど、まだまだこんなにご当地食が、おっとびっくり控えていたのね。
本書は、英国名物と言われる料理を、実際に見て食べて写真に撮った、渾身の体験記。おしゃれなイラストも楽しい。著者は、数々の英国本でも知られた方だが、やはり毎年のように渡英されているとのこと。それでも「行けば行くほど疑問がわいてくるのが英国の食」だそうだ。
そう、英国料理に味を期待してはイケナイと、よく言われる。実際、筆者も歯ごたえ皆無のソーセージに「これはナイだろ」と、確かに思った。アフタヌーン・ティーの余りの甘味攻撃に、きゅうりのサンドイッチが救いに思えたのも事実だ。「船便で」届いたクリスマス・プディングの激烈なこってりさに仰天し、薄くうすーく切って食べ続けたこともあったっけか。
それは、そういうものなのだ。あぁ英国に来たなと思うくらい、そういうものなのだ。
そんな感じで本書を読みつつ、イギリス関連の思い出に浸るのも一興である。それでもそれら料理の背景について、すべてご存じの方は少ないだろう。読んでいるうちに「へぇぇ」と思い、なんとなくもう一回食べてみたくなるからちょっとオソロシイ(ワナだ)。是非、お試しいただきたい。
それに冒頭で書いたとおり、知らない料理もきっとある。茹でたウナギ(イール)や正体不明の謎の食物に近い「ハギス」などはともかく、美味しそうなクィーン・オブ・プディングにしても筆者には未知だった。それに本書、買って帰れるものも多く紹介しているのがミソ! いわゆるポテトチップスである「クリスプス」、ラム&ミント味とかローストチキン&タイム味とか、お土産にしたら超ウケそうではないか。キッパー(ニシンの開きの燻製)も真空パックが売っているというし、クリスマス・プディングやミンスパイもお手頃サイズがあるそうな。個人的にはレモンカード、これを是非一度、食してみたい。日本でも売っているそうなので、これから探し回る所存である。そして黒くてドロドロしたモンスターの瓶詰(ほんとにそんな感じらしい)的な英国独自の最終兵器食物(?)マーマイトにも是非出会ってみたい。美味しく食べられるかどうかは、別として。

だから本書は、出来れば「行く前に」読んでいきたい一冊である。お土産探しも、レストラン選びも、心構えが違ってくると思う。いや、こんな食べ物ばかりの国に行くのか!と慄いてしまうかもしれないけれど。でも「コワいけど食べてみたい」と思う料理を、せっかく渡英して逃して帰るのは惜しいではないか。その中には「実は結構マイブーム☆」になってしまって、その味恋しさにまた飛行機に乗るようなことが、あったりしちゃうものなのだ。
旅と本が手を結ぶと強い。行く前の読書、帰ってからの読書、どちらも旅の一環になる。あ、旅行中の読書の醍醐味というのもあるが、これもまたもひとつ独特なので、いつか何かご紹介してみたい。

図書館 司書 関口裕子