図書館MENU

「この一冊」 図書のご紹介

日本獣医生命科学大学 日本獣医生命科学大学
動物たちの3・11 被災地動物支援ドキュメンタリー

動物たちの3・11 被災地動物支援ドキュメンタリー


阿部智子  (株式会社エンターブレイン 2012年)
2013/03/12更新201303号
分類番号は369.3。「ふんばろう東日本支援プロジェクト」などにも動物支援班があります。ネットで出来る手助けもあるし、ご近所にアニマルシェルターがあるかも。動物支援もまた、終わらない闘いです。

非常用保温アルミシートにくるまって職場に泊まり込んだ日から、二年が過ぎた。

本書は、NPO法人アニマルクラブ石巻の代表として、動物支援に長く奮闘してこられた著者が直面した、震災からの動物支援の記録である。著者自身があの日、出先から自宅に辿り着き(この道のりから大変である)、ご自宅の犬や猫と対面するところから始まる。
正直(自分でも犬や猫を飼われている方であれば尚更)、涙なしには読めない。
が、ページをめくらせる力にも溢れている。「あの日」から著者の前には次から次へと、救いたい動物たちと、彼らをめぐる人々が登場する。動物たちはちゃんと名前で呼ばれ、それぞれの苦悩が描かれ、いったいどうなるのか、先を読まずにいられない。周囲の人々も含めて、これは立派な群像劇である。しかも、著者にはSOSが殺到する状況だ。時に途方に暮れながらも、彼らは知恵を絞って出口を模索する。
それにしても動物をめぐる状況に、これほど多くの、しかも多彩な問題が山積みであることに、驚かれる読者も多いだろう。不妊治療、高額な医療費、普及しないマイクロチップといった震災以前からの課題についても、挟み込まれた著者のこれまでを読み、知ることが出来る。もちろん、震災によって飼い犬や飼い猫と生き別れになってしまった家族や、逆に飼い主とはぐれてしまった犬や猫、仮設住宅での飼育、対応に追われる数々の支援運動や組織、そしてひっきりなしに発生する里親探しといった、震災をめぐるドラマは著者の手の及ぶ限りの活動の結果として、あまさず捉えられている。悲しい場面では胸を詰まらせてしまうが、しかし生きる希望を与えられた幸せな出会いも数多くあり、これらの活動の手ごたえを実感せずにいられないだろう。
何度も絶望の淵に沈みながら、それでもその動物たちがもたらす幸福が、著者を次の行動へと押し出していくのだ。

動物支援が何より大切というわけでは、もちろん、ない。
あの日以来、みんなそれぞれの状況で、その人なりの困難と闘ってきた。医療現場で働く人もいれば、行政の現場に立ち向かう人もいた。農業や漁業といった第一次産業で事態を打破しようとされている方々の苦難も、落ちて破損した何万冊の本と棚の残骸に直面した図書館の方々の苦難も、全壊した店を前にした小売業者の方々の苦難も、ボランティアとして日々活動した方々の苦難も、それぞれが大変なことなのだ。みんなが自分がすべきと思ったことをしていくしかなかったのだ。心から思う。

一緒に暮らす動物たちを、家族として大切に、いとしく思う人々は、こんなにも多くいる。本書は、何よりもそれを伝えている。動物たちが生きる支えとなる人々にとって、それは動物支援というだけではない。震災前、アニマルクラブを取り巻く状況に絶望しかけていた著者の、震災後の一年間を綴った本書。それから更に一年たった。震災関連の図書はこれからもぞくぞく発行されるだろう。図書館にあれば、何年かたって震災が遠くなってしまっても、書架でそれらを見つけることができる。ささやかだが、一日の新刊点数が二百を超えるという現在、残すべき一冊を探さなければと思う。
テレビで報道されないことが、山ほどある。電波からこぼれ落ちた事実をすくった一冊が、まだまだある筈だ。本には、それができる。本は、そのためにもある。

図書館 司書 関口裕子