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「この一冊」 図書のご紹介

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ピンチさんのハッピーホースマンシップ 馬と仲良くなれる本

ピンチさんのハッピーホースマンシップ 馬と仲良くなれる本


ドロシー・H・ピンチ(恒星社厚生閣 2012年)
2014/06/05更新201405号
分類番号は789.6。本学には馬術部もあり、馬の本はつねに人気です。もっと沢山集めたいんですが、なかなかいい本がみつからない。いい本があれば、希望を出してください。

表紙の著者欄は「文・イラスト=ドロシー・H・ピンチ」となっている。ページをめくるとどのページにも、「和むわぁ」系のかわいいイラスト。著者は、このイラスト込みで本書を編み上げたのだ。1966年にアメリカで出版されてからのロングセラーだそうな。

180ページあまりの内容のうち、冒頭3分の1は「馬に乗る以前」のお話である。馬の基本的な性質や体質だけでなく、馬の体の各部位や手入れ道具・馬具の名前がズラリ…お道具が多い! そう、乗馬はとにかく、お支度がタイヘンなのだ(馬上に鞍セットをあげるだけでひと苦労!)。お世話もタイヘンなのだ(蹄を持ち上げるだけで緊張!)。そこがまた、くせになるのだ(可愛い…)。実は筆者、乗馬をちょこっと齧ったことがあって、馬のお手入れやなんかもひととおりやったことがある。だから本書のわかりやすさは身にしみる。馬にくわえてもらうハミだって、仕組みまで丁寧に絵に描いてあるから、なるほどわかりやすい。これらがしみじみわかっていると、実際に馬の背に乗っかってから慌てることがより少ないと思う。何しろ馬上は高い(マジです)。馴れないうちはとにかく焦っちゃうものである。
馬の性質についても、その冒頭部分ではたとえば「馬の耳は別々に前後に動かすことができます」などという点から、馬の気分の見方について触れてあるし、乗り方編では馬の嫌がる事やその反応の仕方など説明されていて、きめ細かい。説明がまたユニークで、馬上でとるべき姿勢については「キャベツ」「しだれ柳」「ピアニスト」「ニワトリ」「指揮者」「バッタ」「ウシガエル」「バレリーナ」などにならないでね!とそれぞれイラストを載せてある。なんだそりゃ?と思った方は、本書を開いてみてください。P.90あたりです。
つまり初心者から楽しく読める一冊なのだが、では完全に初心者向けかというと、どうだろうか。筆者も当時、いろいろ習ったが、漠然ととにかくやっていたことも多かった。しかし本書は、まずそれが何故なのか、馬はどう感じ、考えているのかについて、つねに書いてある。そこがうれしいポイントだ。乗馬経験者や乗馬を教える方が、機会を見てあらためて読んでみるにもいい本ではないかと思う。

速足や駈歩・襲歩・障害飛越など上級者向けの記述もあるので、そもそも初心者に読者を限定したモノでもない。翻訳された方も、乗馬雑誌の編集をされてたような方なので「乗るキモチ」に敏感に、そして日本人にわかりやすいようにと工夫しておられる。訳者が乗馬を始めたのは中学生の時だそうで「当時、この本に出会えていたら」と冒頭、書いてあるのも「馬が不機嫌な理由がわからず」戸惑ったことが多々あったからだそうだ。
軽量でも300kgを超える、ヒトを乗せて走ることもできる巨体なのに、デリケートで臆病で愛らしい馬という存在と、どうやったら意思の疎通ができるか。乗るとなれば自分自身を委ねるわけだから、切実である。そんな思いに向けて生まれた本書、第1章は「馬とは《自己紹介》」とあって、「友達にもなれる」「抱きつくにももってこい」「そして乗ってみると、なんて楽しいのでしょう!」という「ボク」は「馬(Horse)です」と始まる。つまり、語り手は馬なのだ。「ボクは馬なので、当然、馬のようにふるまいます」「なでてもらうのに一番いい場所は、クビか肩です」と教えてくれているのは、馬なのである。本来なら聞くことができない言葉を、そっと内緒で聞くようなこの仕掛けが、本書をちょっとしたファンタジーにしている。
人間編も書いて、馬に読んでもらう方法があればいいのだが、そうもいかないので、こちらをじっくり読みましょう。

図書館 司書 関口裕子