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「この一冊」 図書のご紹介

日本獣医生命科学大学 日本獣医生命科学大学
昨夜のカレー、明日のパン

昨夜のカレー、明日のパン


木皿泉( 河出書房新社 2013年 )
2014/12/17更新201411号
分類番号は913.6。日医大教養課程の蔵書は、当館に一緒に並んでいます。二つの図書館の本が一緒に並ぶようになって、半年過ぎました。今まではなかった本たちを、次々と学生さん達が借りていっています。本が読まれるのを見るのは、マジで嬉しい。

本作について書こう、と思ってから、多少とまどっている。
本屋大賞で堂々2位、テレビドラマ化もされたベストセラーについて、いまさら何を書くのか。小説には作風の向き不向きもあって、感じ方も人それぞれであるし。うーん…ススメ方がむずかしい。
でもおススメしたい。ので、トライしてみます。

筆者はこの本、好みじゃないかもと思いながらも手に取った。著者はドラマの脚本家。本作が小説執筆第1作だそうで、ドラマ代表作は『すいか』や『野ブタ。をプロデュース』など。『すいか』は覚えていた(しかもかなり気に入っていた)。しかし、すばらしいドラマを本にして、それもすばらしいかは賭けのようなものである。
そう思って筆者同様、本作を手に取りかねている方。
また、食べ物がタイトルに入っていてふんわりしたイラストが表紙で、そういう本はちょっと自分には可愛すぎないか、とビビッて手を出しかねている方。
人の死がテーマのひとつらしい、そういう泣かせ系はちょっと苦手で、という方。
そもそも人の死がずっとちらつく小説なんて、重いーきついー、かんべんー、という方。
そんなこんなで、本作を知ってはいても、読むのが億劫なかたがたへ。

本作には、若くして死、もしくは「ジ・エンド」をリアルに感じてしまった人が多く出てくる。具体的な死もあるが、例えば思わぬ身体症状などで仕事を続けられなくなる「ジ・エンド」や、突然人生計画が理不尽に狂ってしまう「ジ・エンド」、詐欺で大金を失う「ジ・エンド」など、人によっては「もうこの世の終わり」とも言えそうな非日常の青天の霹靂。だけど、実際にありえなくもなさそうな「いきなりのゲーム終了」の数々である。
若くして、というのは、だいたい主役級が二十歳代で、その親の世代にしても、まだ定年には時間がある「人生の現役世代」だから。登場人物がみんな「おいおいこの年で、これはないだろ」と、ゲーム終了に呆然とし、不公平感に打ちのめされ、これをいったい、どう納得すりゃあいいの、と思いそうな年代なのである。
青天の霹靂。これはおそろしい。
ふだんは考えないようにしていたり、こっそり自分なりに手を打ってムリヤリ忘れていたり、そもそも想像すらつかなかったりする霹靂たちは、寸前まではありえないレベルの非・リアルである。霹靂つまりは「いかずち」が、まさか自分に当たると思っては暮らさないものだ。
しかし当たってしまったら。
どう折り合いをつけるか。納得するか。当たったらもう、すべて終わりなのか。終わらなかったとしたら、どう生き続ければいいのか。
人それぞれだし、霹靂の種類にもよるし、そんなの準備しようがない。

では、せめて、本作を読んでおいてはどうだろう。
ここには、いかずちに打たれたあとの「明日のパン」がある。
本当は誰もが強さ大きさは違いこそすれ、いかずちを見たり避けたり掠ったり、不運にも当たってしまったりしていて。
そんななかで、明日のパンの見つけ方を知っているかいないかは、大きそうだ。
知っていても、それに気づかなかったり、その効力を知らなかったりでは効果がない。「私は、明日のパンの探し方食べ方を、知っている」とわかっていなければダメだ。
筆者は、何かを読んで「役にたつ」とか「得する」とかは、ふだん、別にどうでもいいのだが(面白ければいいじゃあないか)、でも、この機会に本作を読んでよかったと思う。
そういう本に出会うのは、幸運である。
来年も前を向いていきましょう。みなさま、よいお年を。よい本を。

図書館 司書 関口裕子