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「この一冊」 図書のご紹介

日本獣医生命科学大学 日本獣医生命科学大学
クローン羊のつくりかた

クローン羊のつくりかた


ヘイゼル・リチャードスン( 晶文社 2003年 )
2015/01/09更新201501号
分類番号は467.2。ところで羊って、宗教的なものか、独特の存在感がある。なんで電気羊なのか、なんでクローン羊だったのか。「羊たちの沈黙」がでたとき、あぁ、またここに忘れられない羊が…と思ったものだが、それももう20年以上前かぁ。

もちろん、クローン羊は「つくりかた」でできちゃうようなものではないよ。
たぶん、こども向けの本だし。いかにも海外っぽいイラストと、やさしく語りかけてくる文章が「クローン羊」について、いちから丁寧に教えてくれる一冊なのだ。
これが、なかなかにあなどれない。新年からイッキ読みである。

「いちおう、順序だてて全部説明しておくね。だいじょうぶ! 原理はカンタンだから!」といった感じであれよあれよと「クローン羊」が生まれるまで、ざっと100ページ。DNAの説明からその発見のドラマ、ほ乳類のクローン化の利点と問題点までちゃんと言及してある。どうして「クローン」ってそんなに重大視されるのか、という説明も、フィクション小説を例に出したりして芸がこまかい。何より、最後はちゃんと具体的に「クローン羊」の作成過程を(やや専門的でも)説明して、「精巧で繊細な作業だということがわかっただろう」と結んでいるのがいい。技術も材料も設備もない素人向けとはいえ「つくりかた」を謳っているからには、真正面から堂々ひも解いて見せてほしい。それを読んで「!」と思う小さなおともだちが世界中にいるであろうことは想像に難くない。科学の素養のある少年少女が、こういった本にどんどん出会ってほしいものである。

この本、けっこうな「そそり上手」である。
随所に「遺伝学者になろう」というコーナーがはさまれている。最初は池からカエルの卵をとってきて受精卵を観察しようという、まぁ、よくあるヤツである。実際にジャムの瓶を持って池に走る子は限られるかもしれない(池が見当たらないとか)。だが次は「きみの遺伝子をみつけよう」というススメで、「耳たぶの大きい遺伝子と小さい遺伝子がある。家族の耳の表を作ってみよう」というもの。これは、年末年始で親戚が集まる折などが近い時なら「ヒマつぶしにでもやってみようかな」と、気軽にチャレンジできそうだ。そしてその次が「自分のバクテリアのクローンをつくろう」で、自分の口内バクテリアを繁殖させるという、ちょっと引くような、おおっと上級のススメ。さらに粘土とモールでDNAの模型をつくる、植物のクローン(ホウセンカがおススメらしい)をつくる、玉ねぎのDNAを見る…と、上級・中級・初級者向けが混在する感じで次々繰り出される。
どれかひとつでもやってみて、結果が出たらハマるかもしれない。そしてそういう子が、ホントウの理系なのかもしれないな。本書を読んで、ゴソゴソやってみている子どもさんがいたら、お母さまは感慨深いのではないだろうか。

いや私は、そっち方面疎いんで。ぜんぜん興味ないんで、という方にも、まだ本書にはチャームポイントがある。
DNA発見のドラマに一大スキャンダルが隠れていることは、かつてこのコーナーでご紹介した『生物と無生物のあいだ』の読者をはじめ、ご存知の方は多いだろう。そのあたりをこども向けにどう説明しているのか、野次馬根性的に気になった(大人の事情的に、生々しいでしょう、あれは)。まるで触れずにサラッといくかと思いきや、これがけっこう、うまく描いている。なんと、そこだけ「DNAレース」という実況中継風。「発見者には名誉と大金が転がり込むだろう」とも書いちゃった! 科学にはそれ以外にイロイロあることをちゃんとほのめかしたのだ。そして絶妙にボカした過程がかえって「これ…絶対なにかあったんだよね」というグレー感満載で、なんだなんだ?と思ってしまうおおきなお友達は、すぐググってしまうことだろう。
それにもしかしたら、ググるのではなく、別の本を開いてくれる方がいるかもしれない。DNA発見についての秀逸な本、読ませる本はたくさんある。そうやって次への興味も呼び起こしてくれる本書を、未年を迎えました年初めにご紹介。
本年も、本を読んでいきましょう。よろしくです。

図書館 司書 関口裕子