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「この一冊」 図書のご紹介

日本獣医生命科学大学 日本獣医生命科学大学
かぜの科学 もっとも身近な病の生態

かぜの科学 もっとも身近な病の生態


ジェニファー・アッカーマン ( 早川書房 2011年 )
2015/01/27更新201502号
分類番号は493.3。なんとチキンスープやバナナプディングのレシピ、そして風邪ひき用の推薦図書まで載ってる! 『ボートの三人男』はもちろんイン。主人公がふと医学書を開き、あらゆる病気に心当たりを見つけ愕然とする冒頭からしてケッサクなんだもんねぇ。

正直、読み終わってすぐに再読にとりかかったのは久しぶり。
初読は、とにかくずんずんと読み進めてしまい、最後のページでちょっと呆然。ワタシの風邪観は、間違っていた! というか、間違ってたことだらけだった! がーん!という、そのがーん、がーんがアタマに響いておさまらなかった。具体的にどう間違ってたか、すぐさま確認しておかないと! 何せ風邪である。明日にも、いやすでに罹っているかもしれないシロモノだもの。
断言しちゃうが、本書を読んで、そうなんだよねー、と平然としていられるのは知識のある医療関係者ではないのか?? フツウの、そう、職場や家庭に風邪薬を常備し、ひき始めにはビタミンCを多めにとり、予防としていつもマスクをしている「知らなかった!」人こそ、ごく一般であるハズだ。それともテレビの健康情報番組とかで特集が組まれただろうか。それがあったとしても見そびれた筆者は、いっそ寿ぎたい気分である。よくぞ本書を手にとってみたものだ。
風邪に関して一般的と思われる知識やバクゼンとした理解について、本書は次々に正面から取り組み、モノによっては木っ端微塵に撃破し、また場合によっては意外にも肯定したりする。著者はやっぱりアメリカ人。アメリカで風邪がいかなる存在か、まずそこから数字の一斉掃射である。アメリカ全体で一年に延べ10億回風邪にかかり、ERに緊急搬送される患者は一億人、欠勤などで経済損失は推定600億ドル、子どもの欠席トータルは1億8900万日…と、とにかく具体的。風邪は決して「安い病気」ではないのだ。原因となるウイルスは少なくとも200種類というから、画期的な特効薬登場を待つのも気が長い話だ。今ある薬たちだって、即日撃退とはいかなくとも効果はある。しかも、ほうっておいても大体は治る。だから、これから「特効薬」を謳うには、回復まで1日以上早く、確実に効く(※副作用厳禁)必要があるが、誰も風邪薬に大金は支払わないので安くないといけない。だが新薬開発には少なく見積もって8億ドルかかる。

本書ではまず、なぜ風邪は蔓延するのか、どうやったら感染しないかが追及される。だが、「どれほどうつりやすいか」を読むと、ため息しかでないだろう(どうやったって、うつるのだ!)。厭世的な気分になること受けあいである。何か対策はないのか? 例えば免疫力をあげるとか。だがこの「免疫力」がミソで、我々がいかに誤った「免疫力観」を持っているか! この「大荒れ」の章(風邪の諸症状についての分析は、どれも実に身に迫る)は本書の白眉である。ここであらためて軽くショックを受けたら、そのまま読み進める気合に溢れてくるのは間違いない。風邪をひきやすい人とひきにくい人がいるのはどうしてか、疲れていると風邪にかかりやすいのか、水分補給や加湿やビタミンCに意味はあるのかなど、次々に具体的な実験やデータと共に述べられる(特に総合感冒薬のリスクについてはドキッとした)。トドメに「これは効きます」と言われて信じる心、話題の「プラシーボ効果」までずずいと検証、風邪については読みきった気分が味わえるでしょう。やっぱり人生前向きに生きないと!というかるーい読後ハイになったのは「信じる心」についてデータ込みで述べられていたからかもしれない。「風邪の効能」「風邪のもたらす利益」に至っては、なかなかユーモア豊かというしかない。
「風邪をひくボランティア(報酬あり)」を始め、さまざまな(時にあやしい)実験、過去に起こった騒動など、エピソード選びがニクいったらない。どうせ風邪と付き合い続けるなら、本書のようなスタンスで臨むのは悪くない。とりあえず、どんなに鼻づまりが悲劇的でも、鼻はこわれないそうである。

図書館 司書 関口裕子