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「この一冊」 図書のご紹介

日本獣医生命科学大学 日本獣医生命科学大学
カラー版 国芳

カラー版 国芳


岩切友里子(岩波新書 1506 2014年)
2015/05/29更新201506号
分類番号は081。新書ですからお手ごろです。岩波新書カラー版には他にも北斎など。でもイチオシは国芳、クールで洒落ててカッコイイ。遊び心にふるえがくる。友とは終生、マブダチときた。「荷宝蔵壁のむだ書」なんてイマ風すぎて、もう、ちょっとどうよ。

上野ぢゃあ今、鳥獣戯画とかいうのがたいそう評判というぢゃあないか。列をなしてつめかけているというから、けっこうなことだネ。だが動物の絵というならこの、浮世絵の国芳も忘れちゃならねェ。
いや、もうご贔屓にしているおかたも多かろうよ。まずはそれ、猫好きがやられるネ。国芳といっちゃあまず猫だ。ソレ、何匹もの猫をうじゃりと組み合わせて「うなぎ」だの「なまづ」だの、当て字をつくった絵はおまえさんも見たことがおありだろう。東海道五十三次の宿場の名ぁを、おつな駄洒落で言い換えた「其まゝ地口 猫飼好五十三疋」もおススメだ。「四日市」にぶち猫が集まった絵を描いて「よったぶち」なんてしているところが洒落てるじゃねェか。
猫以外でもなんでも来いよ。萩に鮎なんてェ風流な絵を描かせてもピリッと見せるし、美人画を描かせりゃあ評判の雪文様を粋に着こなしたイイ女と来る。むろん、武者絵は並びもねェ天下一だ。
お、乗ってきたネ。まぁこの本を見るがぁよいよ。国芳の絵ときたら、何せめっぽう細工が細けェ、おっとり見るだけぢゃあ、肝心かなめを逃しちまうのサ。そりゃもったいないというものだよ。八代目団十郎の児雷也の、おとこっぷりにほれぼれするだけじゃぁそりゃダメだ。八代目の着物は金の縫取りだが、模様はなんと、よく見ねェ、蚊ときやがった。「逢性鏡」の八百屋お七も、横のコマ絵の吉三郎が八代目、だからお七のかんざしに「かまわぬ」が来るって寸法だ。どっちもこの本に言われりゃドレドレと見ようものだが、そうでなけりゃあたいしたもんだと感心ばかり、すみまで目が届かねェ。ありがたいことにこの本がありゃ、いちいち教えてくれるから、安心して見ていられるってェものサ。
西洋の絵もどうやってだか手に入れて、ずいぶんとものにしたようだ。それも並べてくれてあるから、まぁご覧なね。写生やなんかもおおいにやったろう。なにせ技が確かだから、金魚が人の子どもみてェに、つれだってそぞろ歩きなんてぇ図も、なんだかほんとに見えちまうのサ。生きているものだけぢゃねェ、化け物だっておまえさん、そこで見てきたように見せちまうのよ。山鮫魚(やまざめ)だの、大ムカデだの、鰐鮫だの、とにかく写したみてぇに描きやがる、それが国芳ということサ。ほれ、ご存知「相馬の古内裏」の、あの大骸骨の絵にしてからが、もう生き写しということだ。もちろん、骸骨なんて見たこたぁねェさ。でも、そう聞くとやっぱり感心するぢゃあねェか。
もちろん、うめェ浮世絵師が大勢いるたぁこちとら承知よ。でもこの本を一冊、つらつら眺めりゃ、なんでもそりゃあそうだろうが、一芸を貫くというのはたいへんなことだネ。ひとりの絵師の絵だってのに、趣向をまるで違ェて見せる。「道外化もの夕涼」みてェに、化け物がとりどりの着物を着込んで、のんびり涼んでるってェひょうきんな絵も、たったいま人を殺したばかりの佐野次郎左衛門の、血のりまでゾッときやがる絵も、なにやら異国の絵みてェな「忠臣蔵十一段目夜討之図」も、どれも国芳、同じ手なんだ。
この男はとことん絵を描くだけじゃぁねェ、死ぬまで工夫をし続けたんだな。この小せェ本に思い知らされちまった。これだから本てなぁ、ネェ。
国芳という人はネ、べらんめぇでネ、宵い越の銭は持たねェ、勇ミ肌のそりゃ江戸っ子でネ、たいそう猫好きだったようだよ。描いている最中にも、ふところに子猫を入れて、話しかけたりなんぞしてネ、家には猫の位牌まで並べて、そりゃあ大事にしていたらしい。火消しとめっぽう仲がよくてネ、鉄火なところはコワモテだが、兄弟みてェな友がいて、そいつぁ狂歌師らしいんだが絵のほうでもネ、助けをしつつもらいつ、したようだヨ。
親分肌の、猫好きの、学はねぇけど頭は切れる、絵にはとことん手をぬかねェ、押しも押されぬ人気絵師サ。いずれおまえさん、読み本にでもなることだろうよ。

図書館 司書 関口裕子