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「この一冊」 図書のご紹介

日本獣医生命科学大学 日本獣医生命科学大学
美味しい田舎のつくりかた

美味しい田舎のつくりかた


金丸弘美(学芸出版社 2014年)
2015/08/05更新201508号
分類番号は601.1。まるでデパートの歳末大売出しのように”どかーんと鮮魚が並び、なだれ込んできたお客さんにすぐ買いつくされてしまう道の駅なんて、すごいじゃないか。見てみたい。そして、買う前提で臨んでしまう気がする。

有楽町が、好きである。
ちがうな、有楽町駅から行ける範囲内に、好きな場所が多いのである(ブランドショップには縁がないが)。もうずっと昔からなのだが、最近、さらに好きになった。
土日祝日に行くと、そう、交通開館前でマルシェをやっているのだ。
野菜が沢山ある。でも、実はコーヒーだの、パンだの、オリーブオイルだのと、もういろいろあるのだ。食べ方も教えてくれる。おかげで、豆腐をオリーブオイルと塩で食べるのがやみつきである。
野菜はとても持ちがいい。どかっと買っても、ちゃんと食べきれる。
この楽しさ。だって、おいしくて、珍しくて、明るく元気なのだよ。王道だ。

しかし本書の場合は、また趣が違う。なにせ「田舎」である(エキュート東京のなかの「ニッコリーナ」とかもあるけど)。
「田舎の美味しい逸品」をつくりあげた山口県周防大島(島!)のジャム屋さん、近江のジェラート工房、北海道のジャガイモ農園。
「田舎の届け方」を変えた高松の農場、会津若松の食品加工会社。
「田舎の売り方」をプロデュースする、高松と東京のセレクトショップ。福岡の道の駅。
「田舎のもてなし」を発信する鶴岡の民宿、島根のレストラン。
それぞれ、はなやかで「美味しい」成功譚である。いざ行かん、とすぐさま駆けつけたくなるものばかり。今後、掲載店の近くに行ったら、立ち寄るコースを組むこと必須である。
それにしても、どれもこれも、こううまく行く筈はあるまい。旅先でジャムをいつも買うわけではない。必ず道の駅で散財するものでもない。
読み込むと、やはりどのケースでも相当の創意工夫をされていた。障害が多かった「酪農家による牛乳の加工・販売」を成し遂げたジェラート屋さんのように、制度や慣行を相手に試行錯誤を重ねた例は典型的だろう。なかには、丸亀町商店街のように、商店街そのものを再開発する第三セクターから立ち上げるダイナミックな方式など、真似するのもちょっと難しそうなものもある。

共通するポイントは、誠心誠意、地道であることのようだ。大ヒットマンガ『銀の匙』で、ジャーマンポテトピザをつくるにあたり、農家出身の男子が「キタアカリ!メークイン!インカのめざめ!シャドークィーン!(中略!)…さやかにはるかにこがね丸…どの娘がいい?」とずらりと名前を挙げる壮観なシーン、覚えてますか? 野菜には、実に多様な品種がある。そういった野菜を売るにも、それぞれに合ったレシピをつけて売る。ジャムにもレシピ、鮮魚にもレシピ。これ、少しでも更新し続けるとしたら大変だろう。加工品をつくるにしても改良する手間を惜しまない。ショップの構成も手を抜かない。
そこに、プロデュース力、組織をつくるノウハウ、販売のセンスなどを持ったキーパーソンがいれば鬼に金棒だ。要は「ポテンシャルのあるものを、それを買う層の前に出せるか、どうか」なのだ。ブレイクできずにいる地方の名品、名店は星の数ほどあろう。あとがきの「本書から成功のヒントをつかんでほしい」という言葉にも、それは表れている。
このあとがきの言葉が、本書の祈りなのだと思う。
うまくいくとは限らない、でもやらずにはいられない。全国にいま育ちつつあるそんな活動の、根底にあるのは何だろう。
…情熱? 希望? 挑戦?
それが何にしろ、それに当たると、どこかが元気になる。力を合わせようと思う。買うほうも、応援したくなる。「買う」という行為は「応援」として、とても大きい。
そして「買う」側も、そういう熱を持った品、売り場を探している。交通会館前につめかける人々のように。
日本のゲーム会社社長の訃報に、世界中が涙した。やはり溢れるほどの熱は、きらきら光る。そして、時として、人も動かすのだ。

図書館 司書 関口裕子