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「この一冊」 図書のご紹介

日本獣医生命科学大学 日本獣医生命科学大学
人間と動物の病気を一緒にみる 医療を変える汎動物学の発想

人間と動物の病気を一緒にみる医療を変える汎動物学の発想


バーバラ・N・ホロウィッツ、キャスリン・バウアーズ
(株式会社 インターシフト 2014年)
2016/07/01更新201606号
分類番号は490.4。解説にもある『動物たちの喜びの王国』や、本文中に登場する『あなたのなかのサル:霊長類学者が明かす「人間らしさ」の起源』『動物感覚:アニマル・マインドを読み解く』などなど、まずは当館で読書の海に漕ぎ出でてみようっと、久方に。

当館に並ぶ図書資料のうち、3分の1強(あるいはもっとかも)は、医学関連書が占めていると思われる。人間の医学と、獣医学の図書だ。当館ではそれを、交互に配架している。人間の内科学の次は獣医学の内科学、人間の放射線学の次は獣医の放射線学、というふうに。獣医学の腫瘍について調べたい/学びたい利用者が向き合った書架のすぐ横には、常に人間の腫瘍学の本もあるというわけだ。
そういう配架法をとっている館は当館だけではないそうだが、ユニークだと感心されることも、時にはある。なので特徴のひとつとして、当館を案内するときにはこの点について触れることにしている。
獣医学部の学生は人間の医学の本もガシガシ借りていく。教員も利用している。彼らが書架にへばりついて広げている分厚い医学書は、時に獣医学の本と同じくらい使い込まれている。医学論文の入手希望も頻繁に受け付ける。そういう環境にいるため、筆者はいつからか「医学と獣医学は相互に関連し合っている」と単純に思ってしまっていた。
だが、あらためて。確かに「獣医学者は、人間の医学を意識している」とは日々の実感から言えると思うのだが、逆はどうなのか。
やはり「獣医学の論文に注意を払う医学者」という存在は、珍しかろうと思うのだ。

人間と動物の体を一緒くたにするとはけしからん、という意見もありそうだし、そもそも差異が多すぎて、参考にならないとか危険だとか言う意見ももっともに聞こえる。また、獣医学とひとくちに言っても、イヌとネコですら多いに相違点がある。
ただ、最近とみに実感しているのだが、人間に見られる疾病の多くは、動物も罹るのだ。昨今は医学書も細分化の傾向があり、あるひとつの分野の疾病について書かれた単行書がままあるのだが、それらの病名に「イヌ」「ネコ」などを足してネット検索すると、殆ど獣医学でもヒットするのである。
本書は近頃珍しいほどの、超大型ブレイクスルーを扱った一冊なのではないか。

本書では、がん、性行為や性感染症、肥満、自傷行為、依存症などについて、これまでの常識を乗り越えた「人間と動物の共通性」、そしてそこからの考察を述べている。性や摂食といった生活行動における方面の記述が多いのは、より「共通性」ということに焦点を絞ったからであろう。あらゆる動物を例に引いて論ぜられる「共通性」は多角的で、読んでいてその羅列っぷりに食傷気味になるほどである。そりゃあ生きものなんだから、とツッコミを入れたくもなる。だがそれも著者の想定内かもしれない。それほど、多い。
その羅列を読み続ける原動力になるのが、その前の第3章だ。がん研究者が集まったとあるパーティで、新進気鋭の医者がふと、ひとりだけ混じっていた獣医に問いかけるシーンは衝撃的だ。「イヌは、メラノーマにかかりますか?」問いを投げかけた相手の獣医は、まさにその病気の専門家だった。二人は人間とイヌのメラノーマの共通性を論じ始め、のめり込んでいく。そこからは、本書でもっともスリリングな展開のひとつである。
この第3章で論じられる「比較腫瘍学」のインパクトは、すごい。実際の治療に汎動物学が、どういった役割を担っていくか、そのひとつの方向性を示しているからだろう。そして読者は、心臓専門医である著者のひとりが実体験した第1章の「事件」をあらためて思い出すはずだ。これは、腫瘍に限定されるようなものではないのだ。
いま、あらゆる分野で「コラボレーション」流行りであるが、それはやはり大きなキッカケになり得るからだ。そしてそんな大きなキッカケは、それほど豊富には転がっていない。ただ、筆者は医学者でも獣医学者でもないので、これほどシンプルに感心したのかもしれないとも思う。医学者の方、そして獣医学者の方の感想は、どうなのか。ぜひ聞きたい。
・・・と、医学書と獣医学書が当たり前に仲良く同居している書架の間で、つよく思ったのであった。思ったよりここは、ユニークな図書館なのかもしれないな。

図書館 司書 関口裕子