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「この一冊」 図書のご紹介

日本獣医生命科学大学 日本獣医生命科学大学
オオカミたちの隠された生活

オオカミたちの隠された生活


ジム&ジェイミー・ダッチャー (株式会社 エクスナレッジ 2014年)
2016/08/02更新201607号
分類番号は489.56。オオカミはオオカミ同士、おしゃべりするんだそうです。その会話は、『スター・ウォーズ』のチューバッカみたいなんだそうです・・・。

当館は、本学の学習や治療に寄り添う形での資料収集を心がけている。ベストセラーや話題作であっても、本学の専門と違えば、スルーするしかない。そこはもう、収書方針がハッキリしていて、時にかなしいほどである。
だが例えば動物や食品、生命科学関連の本にはひと一倍(?)注意を払っているので、そちら方面については出版動向など、チェックし続けているつもりだ。その結果、ささやかな経験ながら「このテーマは旬だな」とか「もはや王道なんだな」ぐらいはわかるようになってきた。
そして自信を持って言いたいのだが「オオカミ」は、動物本の王道のひとつである。

オオカミ本は、目立つ。イイ写真が表紙を飾っている。そして翻訳書が多い。翻訳が出版されるには、まずはいい原書があり、それを見つける訳者の熱意があり、さらに読者の需要がなくてはならないので、本気の翻訳書が続くということはポイントが高いのだ。
目につくかぎりに購入していると新着書架がオオカミだらけになりそうである。

著者であるダッチャー夫妻は、アメリカはアイダホ州で、まず、オオカミ密着のドキュメンタリを作成した。その後、「リビング・ウィズ・ウルブズ」というNPOを立ち上げ、オオカミの正しい生態を広め、意識改革を促す活動を続けている。
ニホンオオカミは絶滅してしまった(らしい)が、アメリカでもオオカミは駆逐するべき存在であった。『大草原の小さな家』シリーズの愛読者だった筆者には、幼い頃からそのあたり御馴染みである。深夜、丸太でできた頑丈な家のなかで、「父さん」と主人公ローラはオオカミを眺める。オオカミも見つめ返していた。静かで、印象的な場面だ。
そして駆除されつくし、絶滅危惧種となって現在、アメリカでは再導入の運動が高まりつつある。本書では、生きたオオカミが見られるということの観光客動員効果や、オオカミ再導入に対する激烈な反対運動についてなど、近年のオオカミを取り巻く状況が述べられている。オオカミという存在が、いかに強烈であるか、ビシビシ伝わってきて、本書独特の緊張感となっている。
それでもなぜいま、オオカミなのか。
「知性があること、犬に似ていること、神話や民間伝承に登場すること、そして長い迫害の歴史を持つこと。これらが相まって、オオカミの魅力には絶対的な力がある」と本書では指摘する。うまい切り方だ。オオカミの家畜化=犬というテーマには『あなたの犬は天才だ』でも強烈に挽きつけられたものである。しかし本書はまず、写真がすばらしい。さすがにナショジオのロゴが表紙にあるだけある。写真の力が、文章もわかりやすくさせていて、理想的な結婚のようである。
時に犬に酷似し、時に凌駕し、ワイルドな存在であるのに強い親近感を感じる、オオカミという存在。家族的な群れで暮らす社会性についての解説が、彼らの表情に意味を映し出し、感情や知性があることをうかがわせる。感情移入してしまいそうだ。

ダッチャー夫妻が設立したNPOについて、すでに述べた。誤解の多いオオカミの生態について、本書はわかるかぎりの「事実」を写真と文章で示し、活動のひとつとしたのである。また、それと同じくらい重要なのが、オオカミが生態系に戻ることの意味である。オオカミは捕食動物だが、それは単純に捕食対象の数を減らすということではなく、バランスを生み出すのだ、という主張は心に響いた。植物に至るまで影響が及ぶのだ。本書はオオカミを通じて、生態系の仕組みについても広めようとしている。
クマにしろシカにしろ、オオカミにしろ、どう対処していくか。それは今後、単純な保護ではなく、駆除でもなく、共存という方向性になっていくように思われる。その際に必要なのは幅広い研究と理解と、その広報なのだ。
正しい理解を促す一助に、本という存在がなればいいと思う。本は、そういうことに適した媒体だ。そして本書は、それに成功している輝かしい一例である。やはりそれは、オオカミという存在の魅力に尽きるのかもしれない。野生動物との共存というのはいつだって難しいテーマだが、本書を伝えたいと力を尽くした製作陣には、羨望と敬意を感じる。

図書館 司書 関口裕子