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「この一冊」 図書のご紹介

日本獣医生命科学大学 日本獣医生命科学大学
お皿の上の生物学 阪大出前講座

お皿の上の生物学 阪大出前講座


小倉明彦  (築地書館 2015年)
2016/09/20更新201608号
分類番号は596。鳥は嗅覚がニブいので、スカンクにも懲りずにアタックするんですと!とにかく、別に料理じゃないところでも本書は退屈しないのだ。

表紙には「味・色・香り・温度・食器……。解剖学、生化学から歴史まで、身近な料理・食材で語る科学エンターテインメント」と書かれている。本文にも「この講義(本)の主眼は、学問より娯楽(「知的エンタテインメント」といってほしいんだけど)」とあるから、もう素直に楽しむべきでしょう。こういう読書もいいなぁ。

トリビア本には「だったらどうなの」という雑学のカタマリになる危険性がつきものなので、テーマは慎重に選ばれるべき。コアなファンがいるとか(その分野でお初ならより良し)、浅くても読者層が広そう、とか。本書はどちらだろう? 「お皿の上」という表現はウマいけど「生物学」ともあるし、定価は1800円だから、それほど敷居が低いわけでもない。(オビではなく)表紙にアオリ文句を入れたいキモチはわかる。
それでもいったん読み始めたら、後悔はしないはずだ。
本書によると、阪大では新入生向けに「基礎セミナー」という授業を行って、五月病がマンエンしそうな頃「詰め込みではなく、学ぶ楽しさ」を実感してもらうんだそうだ。本書の講座もその一環。これは大学だけでなく、高校や中学でも必要性がありそうである。学ぶ上で「考えたり、実験したりする喜び」があれば、勉強のモチベーションも保ちやすい。というか、勉強というのはそういう面がないと本当はつらい。喰いつきポイントを見つけるための「テーマ狩り」の一環として、本書はオススメである。
テーマは料理に関連がありそうな辺りをめぐっているが、乱れ撃ちされるトリビアは伝記ネタ、テレビネタ、時事ネタなども含め多種多様で、しかもブーメランのごとく生物学の話にかえっていき、かと思うとあさっての方向にすっ飛び、と油断がならない。この講義、実際はその場で実験をしているので(例;ケンタッキーフライドチキンのパーティバーレルをみんなで食べて、残った骨でニワトリの骨格を復元する)、本だとそこは歯がゆいのだが、本ならではのアドバンテージもあって好きなように読み返せるのである。何習ったかサッパリわからん、まぁ楽しかったし美味しかったからいいか、という感じにチャンチャン♪してしまうのはもったいない。「ラーメンやうどんは面倒くさがらず、鍋からどんぶりに移して食べた方が冷めにくい」など、一生(?)役にたちそうなトリビアがぞろぞろあるので、ここはのんびりそれを拾うつもりで、何度でも、どこからでも、気軽に読み返すのがいいかと思う。
(もちろん役に立たない秀逸トリビアだって沢山ある。「セピア」がイカ墨の色だったとか、モーツァルトの楽譜とかはだからみんなセピア色…とか。おおう)

もうひとつ楽しみ方があるとすれば、意外にも「学者」とか「学問」の舞台裏本でもあるかなぁ、ということ。恐竜現存説の紹介で、かつてニワトリの採血作業をしていた頃の恐怖体験など、笑ってしまった。ちなみに本書はラストが「論文について」という、論文の読み方書き方その裏側についての章となっていて、少なからず唐突感があるが「教科書や他人の論文は、信じちゃいけない」という一文が「学ぶ愉しさ」という講座のテーマに結びついているので、そのまま興味深く読んでしまった。この章はまさに「研究の舞台裏」を時にクヤしさも含めてたっぷり語った部分なので、また趣が違って面白い。未来の学者さんたちに向けてのガチな一章なんだよなぁ、きっと。

ということで、新学期はこのあたりでハズミをつけて、ひとつがんばっていきましょう。

図書館 司書 関口裕子