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「この一冊」 図書のご紹介

日本獣医生命科学大学 日本獣医生命科学大学
眼が不自由な犬との暮らし方共に幸せに生きるために訓練しよう

眼が不自由な犬との暮らし方 共に幸せに生きるために訓練しよう


キャロラインD.レヴィンRN  (緑書房 2014年)
2016/10/24更新201609号
分類番号は645.6。「家具で怪我しないようにする補正」やステップへの対応、匂いの使い方などは、あるいは「眼の不自由な猫」の飼い主さんの参考になるかも。

シニア犬やシニア猫のための飼育本は結構あるが、こんな本もある。

「眼が不自由」と言うと、どういう犬を想像されるだろうか。生まれつき全盲の犬? それとも後天的に事故や疾病で失明してしまった犬?
そして訓練とは、どんなものを想像されるだろうか。
本書を読むと、なるほどひとくちに「眼の不自由な犬と暮らす」と言っても、さまざまな場合があるのだと実感する。先天的、後天的で犬の反応は違うし、他の障害があるかどうかでも違う。
また、多頭飼いかどうか、多頭飼いとしたらその犬がボス的立場にいるかどうか、多頭の中に猫も混じっていないか、それぞれ「犬の事情」も「人の事情」も異なるのである。この場面想定がバリエーション豊かでびっくりするが、それも本書の利用対象を幅広くしている。構想から実に「本気」である。例えば失明した犬のために、もう一頭、健常犬を飼うことなども紹介されるのだ。その犬がサポート犬となってくれる可能性について、そしてそうなるための準備についての説明である。

本書で注意すべき点は、もとはアメリカで出版されたものの翻訳であると言うことだろう。ところどころ日本の家屋や社会事情と異なる部分がある(多頭飼いの多彩な状況想定も、日本の現状をやや超えている感じもする)。例えば日本の家屋の方が、階段が急かもしれないし、室内も狭そうである。
しかし、どちらにせよ、読者側が創意工夫してこその本書だろう。犬の性格や体格、飼い主側の家族構成や時間割や住居など、各家庭において事情はそれこそ千差万別であるはずだ。本書はそれを工夫するための「手がかり」である。
大事なのは「眼が不自由な犬」が何を、どう感じるかと言うことと、それについての対応。さらに想定される危険やその予防法である。

・失明に至る疾病、遺伝的疾患についての説明。
・失明した犬が見せる反応と、彼を取り巻く犬、そして猫などの反応。
・訓練の方法と考え方。屋内、庭、地域別の注意ポイント。
・人間の白杖に当たる道具などの工夫の方法。
・聴覚障害も併せ持つ場合について。
・先天的に眼の見えない犬の場合について。

以上のようなポイント別に本書の記載はある。

さらに「失明した犬と遊ぶ方法」も紹介されている。
本書がもっとも伝えたいことの一つが「解決方法はあり、眼が不自由な犬と暮しても、犬も人間も幸せを感じることができる」と言うことだと思う。犬は高い知能や鋭い嗅覚を持っている。工夫次第で、リラックスして楽しい日々を過ごすことが可能なのである。

こういった事態に遭遇した飼い主さんが、ショックや混乱を感じ、時には「これまでのように犬に愛情を持てるか」とまで自答してしまうことに、本書は十分に理解を示している。そこがぐっと来る。彼らのための言葉を本書冒頭に持ってきているのが、その現れだろう。そして「必要な箇所から、順々に読んで解決法を探ってほしい」と云うところにも、現代の飼い主への理解を感じる。どんなに飼い犬を愛していても、犬のためだけに生きていられるわけではない。
また本書は「眼の不自由な犬を貰った」と云う仮定もしている。なるほど、ボランティア団体などを通じて、ハンディキャップのあるペットを引き取ることも、現在すでに行われており、これから増えていくだろう。

本書を必要としているご家庭に、どうか本書が届きますよう。そして「ペットのハンディキャップ」についての本も増えますように。ペットの高齢化と共に、障害を抱える事態は今後ますます増えていく。その際の、飼い主さんとペットの支えとなる本のバリエーションは、どんどん増えてほしいのだ。
それらが備わっているのが「終生を共に暮すコンパニオンアニマル」が暮しやすい、飼いやすい社会と言うことだと思う。解決策があるなら、それらは速やかに提示されるべきなのである。

図書館 司書 関口裕子