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「この一冊」 図書のご紹介

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フランスパン・世界のパン 本格製パン技術

フランスパン・世界のパン 本格製パン技術


ブランジュリー フランセーズドンク(旭屋出版 2001年)
2016/12/26更新201611号
分類番号は596.6。日本ではパンにも白さを重視する、とあった。白いパンというと「アルプスの少女ハイジ」だけど、原作では白パンはゼンメルで、実はそんなに白くない。日本に寄せたのかもしれないな。

お米も大好きなのだが、おいしいパンはまた別の話で、贔屓のパン屋に行くときは「買い、すぎない!」と自分をイマシめる。もう、なんでしょうね、あの幸せな香りは。
本書はA4版の大型本で、なんといっても魅力はうるわしきパンたちのアップの写真である。
「おいしいフランスパンの焼き方」を伝えるために写真は大変重要で、さまざまなパンを右ページにバーンと大きな(おいしそうな)写真(とコメント)を据え、左ページにその製パン工程を載せるというスタイルで解説してくれるが、これが大正解だ。その工程のひとつひとつが写真でしっかり示されて、具体的であるのもとても大事だが、出来上がりをこれだけ魅力的な写真で伝えてくれるのも威力が大きい。その完成形の美しさと、味わえるであろう美味しさを目指して張り切るのでなくては、なかなかこのレベルのパンづくりは行えないような気がする。本格的なフランスパンづくりを目指している方にとっては、明るく輝く灯台のような貴重な一冊ではないだろうか。
と思ったら、2015年になって増補版も出版されていた。

本書によれば、日本にフランスパンが根づくには段階があり、1954年にフランス製粉学校の教授が技術指導に来たのが最初の接点であるという。その教授が再び来日したのが10年後の1964年。その翌年の東京国際見本市でフランスパンが人気になったそうだ。
1964年といえば東京オリンピックの年。ふたたびのオリンピックを目前に、現在は日本にも日本なりのパン文化が発展しているわけだが、本書をあらためてめくっていくと、沢山のパンの名前は知っていても、その違いを正確には知らないことが多かった。地名が入っていればともかく、それ以外はボンヤリとその形状と味で区別していた筆者である。そのためか、ひとつひとつの説明も興味深い。食べてみたことがないものも、検索して買いに行きたくなった。これほどの一冊を出す心意気には惚れ惚れである。
ネットでいくらでもレシピが検索できてしまう今日ではあるが、やはり本書のように、おいしそうな写真を見比べ、製法を比較し、行きつ戻りつページを繰る楽しみは、また格別。部屋に置いておいて、お茶タイムなどに繰り返し愛でたいものである。ものはパンですからね、とてもつくる気力がないという場合でも、買いに行くことは出来ますよ。いつか現地を訪れて、食べ歩きたいという野望を抱くことも(抱くだけなら)すぐ出来ますよ。まぁ、写真で見るバターの塊のオドロキの大きさに、ひるんでしまったりもするのだが。

ヨーロッパを旅行された経験のある方は、いろいろ思い出も蘇り、また別の楽しさがあるのではないだろうか。パネトーネやパン・ドーロはイタリアのクリスマス菓子が由来なので、季節的にもいいタイミングである。筆者に関していえば、クグロフが懐かしい。アルザス地方の伝統菓子で、ロレーヌ名物でもある。海外で見たのは一度きりだが、これが沢山並べられた光景は独特だった。なお、いま六本木で展覧会が開かれているマリー・アントワネットは、父親フランツ一世がロレーヌ(ロートリンゲン)出身で、クグロフが好きだったとか。

クリスマスが近くなり、パン屋さんがいっそう華やかな季節とはいえ、暖かい室内で本書を楽しむのもまたよし。お正月のおせち料理の合間に楽しむために、ちょっと特別なパンを本書で選んで、買いに行くのも一興か。書架で見つけた思わぬ喜びとして、本書を今年最後に選んでみた。レシピ本、侮るなかれ。
いろいろな意味で美味しい一冊を来年もご紹介できたら。みなさま、よいお年を。よい一冊を。

図書館 司書 関口裕子