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インコの謎:言語学習能力、フルカラーの視覚、二足歩行、種属を超えた人間との類似点が多いわけ
分類番号は488.8。田舎にいた頃、鳴くのが下手なウグイスがいると、そのまま何シーズンか「ホーケ・・・キョ」などと響いていた。本書で謎が解けた。最新作『鳥を識る』も入れますよー。

インコの謎:言語学習能力、フルカラーの視覚、二足歩行、種属を超えた人間との類似点が多いわけ

細川博昭(誠文堂新光社 2015年)
2017/01/31更新201701号
筆者のインコ原体験は幼少期で(佐々木倫子氏風に言えば恐竜時代)、友だちが肩にインコを乗せて遊びに来た日であった。衝撃だった。「逃げへんの?」「逃げへん。わたしのこと好きなんや」そういうものなのか?! 以来、犬猫は常に身近にいたが、友人知人親戚同僚を含めても、鳥飼いが周囲にいたことがなく、鳥類はずっと私にとって、未知の、見慣れない生きものである。
なので、本書にはいろいろと教えていただいた。
当館には鳥本が数多あり、またオオカミ本と同様、傑作が多いから読んでしまうので、頭のいい生きものであることは知っていた。だが本書には、その知性や能力について具体的に説明がある。例えば鳥類の脳が(体全体の割合から見て)飛びぬけて大きいこと、脳の仕組みが人間とは違い、しわがないこと、嘴の使い道など。時にイラストもつき、文章も平易で、読みやすい。しかし本書のわかりやすさには、他にも幾つか要因がある。
まず鳥について、その身体の仕組みを進化の理由を絡めて語っていることであろう。空を飛ぶ、という特殊な能力をもって生きる鳥類には、やはり特殊な身体が必要で、現在の身体にはどこをとっても理由がある。しかも鳥類は恐竜の子孫、この「つかみ」はなかなか効果的だった。恐竜が実はカラフルだった可能性にも触れており、インコの鮮やかな色合いに、スケールの大きなつながりが感じられて楽しい。毎年発売されるさまざまな恐竜図鑑が、最近やけにビビッドに見えていたが、あれは別に本屋さんで目立つためだけじゃなかったんだ、などと、恥ずかしながらこっそり思った。
そこから続けて、特徴的な行動について語っていることも巧い。インコやオウムがしゃべる、と知っている方は大勢いるだろうところに、いやいやしゃべるだけじゃないんですよ、と、ユーモラスに生き生きと語る。みんなが興味のありそうな行動様式について語ることで、どんどん先入観を壊していくのである。
ポイントは、著者自身が長年の鳥飼いであることだろう。鳥との生活が、ビジュアルで見えるようである。
その後、彼らの行動の理由などを解説していくことで、鳥たちの生態について語っていく。思うに、著者はこれまで鳥たちと長く暮らし、彼らについて聞かれたり話したりすることが多くあったのではないだろうか。「今、こうしたのは嬉しいからなんだよ」「これができるのはすごいことなんだよ」そう語るたびに「ホント?」と怪訝な顔をされたり、うまく伝わらなかったりしたのではないか。ホントだよ、だってこういう能力があるんだから、こういう個性があるんだから。どう言えば、もっと上手に伝わるのか。何度ももどかしい思いをしてきた結果、本書が生まれたのではないか。そう思わずにいられないほど、本書はわかりやすいのである。
人類と鳥類はまったく違う進化の過程をたどり、身体的特徴も異なっている。にも関わらず、双方から歩みよる形のコミュニケーションをとることが出来る。このインパクトの強烈さ。しかもそれは、コミュニケーションの本質について多くを語っているのだ。たとえ人類間でも、他人同士がコミュニケーションをとることは、異種間のそれと本質的には変わらないように思う。
コラム4の「いつかほかの星の住民と出会ったら」は、そんな思いが詰まった一節で、ティンカーベルのようにキラリと愛おしい。
本書は、著者が感じている、鳥類への驚きや希望や共感をカラフルに織り上げた結晶だ。鳥類は進化の過程で表情筋をそぎ落としてしまい、その代わりに羽根を使ったパフォーマンスや、さえずりによるコミュニケーションを発達させた。人類にとって活字もまた、重要なコミュニケーションツールである。著者は「本」という手段で、愛する鳥たちについて伝えようとしている。おそらく、本当はもっともっと、伝えたい多くのことがあったのを、厳選し抜いてここまでにしたのだろう。それはたいへんなことなのだ。
年のはじめは干支関連の一冊をお送りしている当欄。酉年を待っていた。ニワトリじゃないけどこれにしようと、だいぶ前から決めていた。本書中で触れられている「凄いヨウム」アレックスについての『アレックスと私』も当館にあるので続けて読まれると嬉しいな。本年もよろしくお願いいたします。


図書館 司書 関口裕子