この一冊
前へ戻る
飛ぶ教室(ケストナー少年文学全集:4)
分類番号は943。本作は新訳も出ていて文庫もいろいろある。でもまだこの全集も手に入るようで嬉しい。ハードカバーで一生大事に持っているのもいいとおもう。だれかのプレゼントになって、大事にされるといいなぁ。

飛ぶ教室(ケストナー少年文学全集:4)

エーリッヒ・ケストナー作;高橋健二 訳(岩波書店 1962年)
2017/12/21更新201711号
これはクリスマスのものがたりです。
『ふたりのロッテ』を岩波少年文庫で愛読してきたくせに、なぜかこの『飛ぶ教室』は読まずじまいで来てしまいました。人生には後悔がつきものです。でも今から読んでもバチは当たらないでしょう。
読みはじめておやおやでした。ケストナー自身が、真夏にクリスマス物語を書く苦労をほほえましくも愚痴る場面からはじまっているのです。それに「明るくて楽しいばかりの児童書!」にかんしての不満も述べてしまっています。ということは、本書は明るく楽しいばかりではないのでしょう。そしておとなの事情と共に書いている臨場感もたっぷりです。どうやらおとなが読んでも「だんぜん」平気そうなかんじです。
平気でした!
まず、禁煙先生と正義先生の再会に、すっかりやられてしまいました。
ヨーニーや、マルチンの悲しみにもらい泣きしたのは、いうまでもありません。
クリスマスごろの冬の情景のいちいちも、いま読むのにぴったりでした。『ハリー・ポッター』シリーズにも冬景色がよく登場しますが、どうして冬の描写は幸福も不幸もきわだってみえるのでしょう。不幸は身をきるように鋭く、幸福はあたりを照らすようです。

先生同士の再会に胸をうたれたのは、おとなになって読んだからでしょうか。
そんなことはないでしょう。こどもがよめば、おとなになっても続く友情、いちど切れてもよみがえるきずなに、ふるえたことでしょう。絆という字は2011年の今年の漢字にもえらばれましたが、おくの深いことばです。きずなは、いろいろな結び方結ばれ方があるのです。ヨーニーはおとうさんがひどいひとでしたが、船長さんと出会いました。血のつながりこそが大事なもの、ではないのです。ふたりの先生はどうやらしあわせな家庭を築くことはできませんでした。でも、友情がありました。「いい家族をつくらなければ生きていけない」わけでもないのです。
「このきずなでなくちゃだめ!」と限定してしまうのは早合点かもしれません。
登場するこどもたちもとりどりで、得意なこともみんなちがいます。意外なこども同士がともだちです。こどもたちの未来を感じますが、いっぽうで、不遇なような気ままなような、すくなくとも当初の人生設計とはちがっているだろう境遇にいる禁煙先生もいます。こどもたちにすっかりばかにされてしまう先生も登場します。でもすっかり不幸なわけではありません。それぞれ、よりどころがありますから!彼らにも未来があり、こどもたちにもそれがわかります。ぜんぶことばにはできないかもしれませんが。
だいたい、この本をよんだあとのきもちを、ぜんぶことばにできるようなひとはいないでしょう。

こども同士の対決の「軍使」をつとめたゼバスチアンは電子論や量子論をまなんでいるそうです。作中でも、宿題そっちのけで遺伝学の本にむちゅうになるようすがでてきます。彼は研究者になるかもしれません。ケストナー曰く、勇気とかしこさが一体になったとき、人類は進歩することができるのだそうです。どちらかかたほうでは、いけないのです。
彼らの未来は本書ではわかりません。クリスマスまでのみじかい、みじかい日々を描いた本ですから。「さつじんじけん」や「いんぼう」や「いろこいざた」や「しゃかいのきょあく」なども、まるでありません。でも彼らのクリスマスがどうなるのか、むちゅうで読むことになるでしょう。
この文学全集を岩波書店が出版したのは1962年、キューバ危機の年です。当館所蔵の本は第36刷で、1991年のものでした。古いほんですが「だんぜん」もんだいはありません。
これはいまでもとびきりの、クリスマスものがたりです。


図書館 司書 関口裕子