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パンを耕した男
―蘇れ穀物の精―

渥美京子 (コモンズ 2003年)
2009/7/1更新 009号
こだわりのパン、というフレーズは巷にあふれかえっているが、本書で取り上げられた銀嶺食品のパンはおそらく、その究極のカタチの好例である。
国産小麦100%のパン(『地パン』)、雑穀や魚醤を使ったパン(『穀福』)、野草酵素を練りこんだパン(『野さし草』)など、どれもオーガニックストアや専門店、そしてネット上で人気を誇っている。通販カタログなどで目にした人も多いのではないか。
さて、“国産小麦でパンをつくる”こと自体が“ありえない”という常識を変えた人物とは、どんな生い立ちだったのか。
これが読むほどになかなか凄絶な経歴なのだが、それにしても明るい。前向きである。逆境をモノともしないつよさがある。
大量生産、廉価、手軽なモノばかりが溢れているように見える現代だが、世の中、そう単純ではない。食物アレルギーは時には生命に関わる問題だし、得体の知れない原料や製品に対して恐れのまったくない人は少ない。特に、さまざまな報道がされる現代では、他人事ではない。
これからは必ず、このパンのような品がじわじわと広まっていくだろう。そんな作り手をめざす人もいれば、そういう作り手と出会って流通を担う人もいる。そして、彼らが世に出したパンを選び、応援する人もいるというわけだ。
ハンディキャップを持つ人の雇用、というテーマも本書には出てくる。人はひとりでは生きられないなぁ、としみじみ思う。
それは、ひとりではないよ、ということであってほしい。