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猿橋勝子という生き方

米沢富美子 (岩波 科学ライブラリー 157  2009年)
2009/9/10更新 024号
渋谷マークシティの連絡通路で公開されている、岡本太郎氏の「明日の神話」。
描かれているのは、1954年の米国の実験で、水爆が爆発した瞬間である。
日本の漁船・第五福竜丸をはじめ、多くの人々が被爆した。広島・長崎から9年目の出来事である。第五福竜丸は被爆の事実を打電しないまま帰港した。米軍によって証拠隠滅のために爆撃されるのを恐れたという。帰港するまで水爆の実験だと確定できなかったにも関わらず、そういった判断をしたということが、当時の切迫した状況を匂わせている。
猿橋は、そのビキニ海域の放射能汚染状況を調査・分析し、「海水に薄められるので汚染は心配ない」としていた米国側の見解を覆した。日本独自の調査でそれを突き止めた彼女は米国に乗り込み、正確な分析によって、それを証明してみせたのだ。
目も眩むような功績である。国内においてさえ、まだ女性科学者には多くの障害があった時代だ。彼女が後進の女性たちに与えた影響の大きさは、想像にあまりある。
が、一般には、その「神話」を知るひとはまだ少ない。

本書は彼女の評伝である。平塚らいてうなども登場し、読み応えもたっぷりあるが、エピローグにある彼女の哲学だけでも光っている。
恩師から受け継いだ「科学者は、同時に哲学者でなければならない」という教え。そして、「実績を残せ」というシンプルな言葉。
直向きな生き方に相応しい。