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日本獣医生命科学大学 日本獣医生命科学大学
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野生動物のお医者さん

齊藤 慶輔 (講談社 2009年)
2010/11/29更新 049号
本文中にも書かれているが、本学出身の獣医さんである。
専門は、猛禽類。野生のワシやタカやフクロウである。『プロフェッショナル 仕事の流儀』などに登場し、映画『ウルルの森の物語』で船越英一郎氏が演じた獣医師のモデルにもなったので、ご存知の方も多いのではないか。
現在、釧路湿原野生生物保護センターの中の、猛禽類医学研究所の代表をされている。

子どもにも読みやすい内容である。語りかけるような文章だ。
こういう文章は、ヘタをすると幼稚なだけになってしまうのだが、本書にはそんな気配がまったくない。おそらく著者の人柄によるものであろうし、また、語っている内容が専門書としてのレベルを落とさない、きちんとしたものであるからだろう。治療の内容、猛禽類の習性、具体的な対策についての説明の細やかさには脱帽。平易で穏やかな言葉で専門的な内容を伝える、という、「書物の役目」のお手本のような本である。
しかも、過去の治療体験や、周囲の人々との経緯を語る口調には臨場感もある。彼は、これからも本を書き続けるべき人である。

ハンターが撃ったシカの肉を食べ、中にある鉛の銃弾で鉛中毒を起こして死ぬワシ。
電気を供給するための鉄塔で感電するワシ。
著者はこれらの悲劇を防ぐために「鉛の弾を食べて死ぬのはワシだけではない」「ワシが感電して停電することも防がなくてはならない」という、歩み寄りの姿勢を大切にする。極めて高度な政治感覚、人としてのバランス感覚である。こういう人が、これからはもっとも必要なのではないだろうか。世の中はもう、これほどにフクザツなのだから。