「応用生命科学の発展に大いに寄与」 新井 敏郎(獣医生理化学教室 教授)

目的と意義

動物ゲノムの解析が進み、疾病に関する遺伝子情報が蓄積されている。その結果、発症メカニズムの理解が進み、発症予測が可能になりつつある現状において、発症後の対症療法主体の旧来の獣医療だけでは不十分である。本プロジェクトは、発症予測に基づく疾病予防(予防獣医学),栄養管理,ワクチネーション管理等を通じ,健康維持(健康管理)から幹細胞を用いた再生医療、NOGマウスを用いたテーラーメード医療を目指す「動物疾病制御研究」の拠点形成を目的としている。
本プロジェクトの成果は、動物個体の検査情報に基づくテーラーメード健康管理システムの充実、DNAワクチンを含む新薬の開発、再生獣医療の展開による新しい獣医療モデルを提案することにより獣医療の変革を進めるだけでなく、医学・畜産学領域にも大きな影響を及ぼすと考えられる。本プロジェクトは応用生命科学の発展に大いに寄与し、有意義な研究と考える。

研究分野・内容

[分野]
獣医学・農学の基礎、臨床、応用分野にまたがる研究領域が主体である。研究の直接の対象となる動物が犬および猫であるが、リンパ球やNK細胞を持たないNOGマウスという免疫不全動物を使い、動物疾病制御メカニズムの研究を進めることから、実験動物学、医学領域の研究者の協力が欠かせない。研究内容は、疾病予防学、免疫学、腫瘍学、ウイルス学、遺伝子工学、薬学などを包含したものであり、生命科学全般に及ぶ幅広い学際領域の融合が不可欠である。さらに疾病の自動診断システムの構築、診断基準の策定のためにバイオインフォマティクス、統計学の知識も必要となる。

[内容]
1.新しい疾病診断システムの開発
血液検査を基にしたオンライン自動診断システムの開発、人と犬猫共通感染症の診断用DNAチップの開発。
2.可移植性腫瘍細胞株の樹立
犬や猫に多く発生する乳腺癌、リンパ腫瘍をターゲットにして原発腫瘍をNOGマウスに移植する。この株を使って、分子標的薬の効果判定,薬効に関連する遺伝子の解析を行う。
3.臍帯血バンクの設立・幹細胞の分離
組織再生に応用可能な多能性細胞を得るため、動物の臍帯血をNOGマウスに移植、あるいはすでに我々が樹立している腫瘍幹細胞(道下・原田の業績)を移植して効率的な幹細胞分離システムを作り、臨床応用に必要な量の幹細胞増殖システムを構築する。iPS細胞を補完するウイルスベクターによる遺伝子導入のない安全な多能性幹細胞の供給を可能にする。
4.新規ワクチンの開発
フィラリア、猫伝染性腹膜炎・猫免疫不全ウイルス等をターゲットにゲノム情報を基に組換えDNA技術を応用した新しいワクチンの開発、NOGマウスを用いたワクチン効果検定システムの構築を行う。
5.幹細胞を使った再生獣医療へのチャレンジ
NOGマウスを介して得た多能性を有する幹細胞を使った組織再生による再生獣医療法の確立を目指す。神経細胞、肝細胞、膵島β細胞の再生に幹細胞が利用できるという結果を得ており、安全性を確認した上で、動物への臨床応用試験を実施する。

研究により期待される効果

1.予防獣医学の確立による動物疾病の早期診断が可能となる。
2.早期診断に基づく早期治療による疾病の発症遅延・軽減化が可能となる。
3.診断基準の国際化により国際的な動物疾病予防システムができる。
4.NOGマウスを用いた新たな分子標的薬の開発および迅速な薬効診断システムが開発
できる。その責任遺伝子の解析が容易になる。
5.新規ワクチンの開発により動物のウイルス性疾病の予防が可能になる。
6.臨床利用可能な幹細胞の樹立、大量培養の実現により、組織(肝臓,神経組織が
ターゲット)の再生、臨床応用が可能となる。
7.臍帯血バンクの設立により遺伝子組み換えを伴わない安全・安価な再生獣医療の
実施が可能となる。
8.個々の動物の体質に合わせたテーラーメード獣医療の実施が可能となる。
9.人医療への重要な知見の提供。