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野生動物からみた鳥インフルエンザ問題

今年、わが国では79年ぶりに高病原性鳥インフルエンザが発生した。野鳥がウイルスを伝播させているのではと疑われたが、今のところ証拠は無い。しかし、今回の事件から野生動物と人間とのかかわり方を再考すべきだ。
まず、従来の共通感染症対策では、国内の野生動物に対する防疫を想定していなかったことが混乱の原因となったため、感染症関連法に野生動物の監視体制を明記すべきだ。一方で、年間数億頭もの生きた動物が輸入されながら、その99%は種類すらチェックされていない。しかも、こうした外来種が野に放たれ、深刻な生態系や公衆衛生上の影響が出始めている。
少なくとも、愛玩用に野生動物を輸入することは禁止すべきだ。

野鳥が犯人?

今年、山口県の養鶏農家で高病原性鳥インフルエンザが発生した。国内では、じつに79年ぶりの発生となった。その後、大分県、京都府と連続して発生したため、野鳥がウイルスを伝播させているのではと疑われた。
その後、野生のカラスからこのウイルスが分離されると、行政機関の野生動物担当窓口には問い合わせや苦情が殺到した。中には根拠無く野鳥を犯人扱いしたり、野鳥の撲滅を訴えるものもあったようだ。
事態を重く見た政府は、「国民の皆様へ」と題する緊急声明を発表し、この後の約1ヶ月間で、1万8000羽余の野鳥の死体や捕獲個体が急遽、検査された。結局、京都府・大阪府で発見されたカラス9羽以外で高病原性のウイルスは検出されず、また、これらのカラスは、先に発生した養鶏場等での二次感染と判断された。
これらの結果から、野鳥が本ウイルスを伝播していないと断言することはできないが、少なくとも野鳥の間で蔓延している状況にはないと考えられた。

想定外の野生動物対策

その後、幸いにして新たな発生は無いが、今回の一連の事件を教訓化して、野生動物と人間とのかかわり方を再考すべきだろう。ここでは、大きな課題を2点に絞って述べておきたい。
まず、従来の人と動物の共通感染症対策で、国内の野生動物に対する防疫を想定していなかったことが混乱の原因となった。実際、家畜伝染病予防法に基づく「鳥インフルエンザ防疫マニュアル」では、野鳥どころか鶏以外の家禽や飼い鳥への対処方法も想定されていなかった。
カラスでの発生で、ようやくマニュアルが改正され、野鳥等の検査体制を整備することとなった。
野生動物の生態や感染症のモニタリングは、危機管理として考えれば日常的に行う必要があるため、今後は、感染症関連法に野生動物の監視体制を明記すべきだろう。

外来種天国・日本

もうひとつの課題は、輸入される野生動物の問題だ。
今回のインフルエンザ対策では、清浄国以外からの鳥類の輸入を停止したが、ペット用の野鳥が第3国経由で輸入されていることは、野鳥関係者なら常識的な事実で効果は疑問だ。それどころか、わが国へは生きた動物が年間数億頭が輸入されているが、じつにその99%は種類すらチェックされていないという驚くべき実態がある。当然、病原体も同時に持ち込まれているだろう。2001年から、順次、分類するようにはなってきたが、それでも大半は種が不明のままだ(表)。しかも、こうした外来種が野に放たれるケースが多く、深刻な生態系や公衆衛生上の影響が出始めている。
野生動物のペットブームの背景には、動物の売り買いや飼育管理が永らく野放しに近かったことがある。このような動物取り扱い業は、多くの先進国では免許制(許可制)となっており、プロフェッショナルな職業である。わが国でも、今年制定される外来種対策法や、来年改正予定の動物愛護管理法に関する議論では、いずれも動物専門家の必要性が社会的に認知されてきた。
本学も、動物に関する専門大学として、こうした人材の育成に努め、社会の要請に答える必要がある。

表. わが国に輸入された生きた動物の頭数(魚介類を除く)
 
2000年
2002年
種が判別 ウマ
5306
4934
ウシ
14920
19313
ブタ
431
187
家禽
915860
1109965
イヌ
5301
4948
サル
4157
5171
フェレット
27418
ハムスター
678793
モルモット
1263
プレーリードック
11473
チンチラ
3116
リス
57540
分類群が判別 食肉目
725
ウサギ目
2516
コウモリ亜目
153
その他のげっ歯目
51373
その他の哺乳類
9713
かめ目
740831
その他の爬虫類
138326
猛禽類
3873
オウム目
27169
はと目
3638
その他の鳥類
133633
両生類
11587
不明 その他
862365416
487723860
合計
863311391
490771517
検疫検査数
1398656
1500561