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性的魅力をアピールするフェロモンを雌イモリで発見

2017年1月26日

 本学 獣医学科 病態獣医学部門 中田友明講師とその共同研究者が、研究の結果、雄イモリに性的魅力をアピールする雌のフェロモンを発見しました。

*本研究成果は英国時間の2017 年1 月25 日10 時(日本時間同日19 時)付で英国オンライン科学誌
「Scientific Reports 」のウェブサイト上(http://www.nature.com/articles/srep41334)に公開されました。

研究成果の概要

<研究成果のポイント>

  • 1.

    雄イモリが雌に対してプロポーズをする前に、雌のほうが雄をその気にさせるフェロモンによる信号を出していることを初めて示しました。

  • 2.

    そのフェロモンはアミノ酸3残基でできたペプチドで、卵管の繊毛細胞でつくられて水中に放出され、雄に受け取られます。

  • 3.

    雌がつくるペプチド性のフェロモンという点では、これが脊椎動物で初めてのものです。これをアイモリン(imorin)と名付けました。

  • 4.

    雄は求愛のために雌を惹き付けておくのにソデフリンというフェロモンを必要とします。 雌のアイモリンと雄のソデフリンによる化学信号が順序立って働いて生殖を効率よく成功に導くと考えられます。

<研究の背景>

 菊山榮早稲田大学名誉教授によって編成された研究グループは、雄のアカハライモリが求愛行動中に雌を惹き付けておくためのフェロモン(ソデフリン)を発見しております(参考文献1)。今回、同グループは生殖期の雌雄のイモリの行動様式を解析した結果、雌自身も雄の求愛に応じる用意があることを示すフェロモンを出しているに違いないという結論に達して研究を進め、その正体をつきとめ、アイモリン(imorin)と名付けました。古語でイモ(妹)は「恋人・妻」をさし、先頭にアを付したのは、英名にするとiがアイと発音されるためです。リンはソデフリン(sodefrin)のリンに由来します。研究推進の中心となったのは、本学 獣医学科 病態獣医学部門 中田友明講師をはじめ、奈良県立医科大学の豊田ふみよ准教授、富山大学の松田恒平教授、帝京大学の中倉敬助教、東邦大学の蓮沼至講師らで、それぞれの専門的知識と技術を結集して成功させました。

<研究の成果>

 雌の性的魅力を発信するフェロモン(アイモリン)の化学構造は3残基のアミノ酸(アラニン、グルタミン酸、フェニルアラニン)からなるペプチドであり、生殖期にのみ、総排出腔に近い卵管の内壁を縁どる繊毛細胞でつくられ、総排出腔から水中に随時放出され、生殖期の雄でのみ、その鋤鼻(じょび)器官 (多くの脊椎動物でフェロモンを受容する感覚神経が局在している部位で、イモリでは側鼻腔に相当する)で信号が受けとられることがわかりました。
 これにより、アイモリン信号が雄の脳に伝えられると、今度は雄が主導権を得て、雄の総排出腔から雌をつなぎ止めておくフェロモンであるソデフリンを放出し、最終的に精子の受け渡しに至るまでの一連の求愛行動を完結させること、即ち雌雄双方がタイミングよくフェロモン信号を出すことが、交尾器官を備えていないイモリの生殖に重要であるという結論を得ました。

<研究の重要性>

 両生類に属するアカハライモリは雄に加えて雌もペプチドフェロモンを生殖のために用いていることが判りました。性フェロモン分子がペプチドであることは種の分化に重要な意味をもっているものと思われます。一般に活性を持ったペプチドはもっと分子量の大きい前駆体タンパク質の一部が酵素で切断されて生じてきます。そのタンパク質をつくる遺伝子の一部に変異が生じて、それがたまたまフェロモンをつくる箇所に相当した場合には、異なるフェロモン分子をつくるようになります。一方で、フェロモンの受容体タンパク質の遺伝子の変異によって、相手側の変異したフェロモンに反応できる異性が出現すると、その間で生殖を繰り返し、世代を重ねてついには新しい種を生じるきっかけになると考えられるからです。日本各地に分布しているイモリを用いて、フェロモンの前駆体タンパク質遺伝子やフェロモンに対する反応性を調べていると、それを思わせるような事例に遭遇します (参考文献2, 3)。
 また、生殖活動に重要な役割をもち、繁殖相手の性行動に影響を与える性フェロモンが雌雄両方に備わっていることがわかったことで、今後それぞれのフェロモンがそれを受け取った側の動物に性行動を引き起こすまでの過程を脳内で調べることが可能となりました。性フェロモンの作用機序や性行動が起きるまでの脳内での過程を深く理解することによって、単にイモリの生殖のメカニズムを明らかにするだけでなく、水産・畜産動物、更には希少動物などの生殖や性行動に関する問題の解決にも寄与する研究に発展してゆくことが期待されます。

参考文献

  • 1.

    Kikuyama, S. et al. Sodefrin: A female-attracting peptide pheromone in newt cloacal glands. Science 267, 1643-1645 (1995)

  • 2.

    Iwata et al. Molecular cloning of newt sex pheromone precursor cDNAs: evidence for the existence of species-specific forms of pheromones. FEBS Letters. 457, 400-404 (1999).

  • 3.

    Nakada, T. et al. Isolation, characterization and bioactivity of a region-specific pheromone, [Val8]sodefrin from the newt Cynops pyrrhogaster. Peptides 28, 774-780 (2007).

参考図

<図の説明>

 アカハライモリの生殖行動の初期段階とそれに関与する雌雄双方のフェロモン。
 雄は雌が求愛を受け入れる状態にあることを、雌の総排出腔に鼻先を近づけ、そこから水中に放出されるフェロモン(アイモリン)によって判断する(A)。次いで雄は頸のところで雌の頭部をブロックし、総排出腔から放出されるフェロモン(ソデフリン)を、尾を折り曲げて振動させて生じる水流にのせて雌の鼻に送る(B)。やがて雌が雄の頸を押すと雄は雌の先頭に立ってソデフリンを放出しながら前進する。雌は雄の尾に鼻先をつけたまま雄に従う (C)。そのあと雄の総排出腔からの粘着性のある精子塊の放出と雌による総排出腔からの精子塊の取り込みが行われて体内受精が可能になる。


*本研究は、文部科学省科学研究費補助金(15K18570, 26440179, 15K07134)、公益財団法人サントリー生命科学財団 平成27 年度研究助成(SUNBOR GRANT)の補助のもと実施されました。

掲載論文

  • [題名]

    Imorin: a sexual attractiveness pheromone in female red-belliednewts (Cynops pyrrhogaster)

  • [著者名]

    Tomoaki Nakada, Fumiyo Toyoda, Kouhei Matsuda, Takashi Nakakura, Itaru Hasunuma, Kazutoshi Yamamoto, Satomi Onoue, Makoto Yokosuka and Sakae Kikuyama

  • [掲載誌]

    Scientific Reports 7:41334 (2017). DOI: 10.1038/srep4133