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獺祭早田の製品化

2017年5月8日

研究成果の概要

<研究成果のポイント>

  • 1.

    加圧二酸化炭素技術を利用した世界初の食品製造を実現しました。

  • 2.

    室町時代から始まった加熱による清酒の殺菌・酵素失活方法を一新しました。

<研究の背景>

・清酒の殺菌・酵素失活
 清酒は、精米して蒸した米を麹菌の酵素の力により糖化させ、乳酸菌が出す酸により雑菌の繁殖を抑え、酵母による醗酵を行うことで醪(もろみ)を造り、その醪を搾ることで生まれます。乳酸菌や酵母は自身が作り出す酸やアルコールによりほとんど死滅しますが、生酒中には麹菌由来の酵素が残存しています。さらに、清酒の醗酵は開放状態で行われるので、火落菌と呼ばれるアルコール耐性が高い乳酸菌が入り込みます。そのため、生酒は冷蔵貯蔵する必要がありますが、貯蔵条件が悪いと酵素や火落菌が働き、白濁や風味の劣化を引き起こし、場合によっては飲用に適さなくなります(参考文献1)。通常、貯蔵前に生酒中の酵素を失活し、火落菌を殺菌するために65℃で3分程度の加熱処理「火入れ」が施されていますが、火入れを行うことで生酒特有の香味が低下することがあります。

・加圧二酸化炭素の歴史
 加圧二酸化炭素を利用した殺菌・酵素失活は、加熱処理の代替技術として1951年にFraserがNature誌に発表して以来(参考文献2)、世界中の多くの研究者によりその利用方法やメカニズムについて議論されてきました。日本国内においても、1990年代から東京大学や九州大学などで研究が始まり(参考文献3, 4)、2000年代には装置メーカーから加圧二酸化炭素装置が販売されたこともありましたが、この装置を使った食品の製造には至りませんでした。その主な要因は、二酸化炭素は香気成分との相性が良く、加圧二酸化炭素により殺菌・酵素失活した食品は加熱由来の香味の発生は少ないものの、香りが抜けてしまい食品の風味が大きく変化してしまうことにありました。

<研究の成果>

・二酸化炭素マイクロバブル技術の開発
 近年、マイクロバブル(以下、MB)と呼ばれる50 μm以下の微小な泡が、様々な分野でその利用について注目されています。そこで、2007年に加圧二酸化炭素にMB技術を組み合わせ、殺菌・酵素失活効果を維持したまま香気の損失が限りなく少ない装置を考案し、2010年に実用化に向けたさらなる装置改良を行いました(参考文献5, 6, 7)。

・獺祭早田の製品化
 2010年から清酒「獺祭」を製造する旭酒造株式会社(以下、旭酒造)と二酸化炭素MBによる清酒の殺菌・酵素失活に関する共同研究をスタートし、二酸化炭素MBを利用することで通常3分要していた火入れ時間を十数秒まで短縮することができるようになり、熱による清酒への影響を極力減らすことに成功しました(参考文献8, 9)。その成果を元に、旭酒造の酒蔵内に二酸化炭素MB実証装置を導入し、2016年12月から加圧二酸化炭素を利用した世界初の製品である清酒「獺祭早田」の製造が開始されました。

「獺祭早田」に添えられている手紙

<参考文献>

  • 1.

    財団法人日本醸造協会. 改訂やさしい清酒の貯蔵・出荷管理. (1995).

  • 2.

    Fraser, D. Bursting bacteria by release of gas pressure. Nature 167, 33-34 (1951).

  • 3.

    Nakamura, K. et al. Disruption of microbial cells by the flash discharge of high-pressure carbon dioxide. Biosci. Biotechnol. Biochem. 58, 1297-1301 (1994).

  • 4.

    Shimoda, M. et al. Antimicrobial effects of pressured carbon dioxide in a continuous flow system. J. Food Sci. 63, 709-712 (1998)

  • 5.

    早田保義, 小林史幸. 食品の処理方法及び食品の処理装置. 特許第5131625号.

  • 6.

    Hayata, Y. and Kobayashi, F. Food processing method and food processing apparatus. 欧州特許第2181612号, (France).

  • 7.

    早田保義, 小林史幸. 処理方法および処理装置. 特許第5716258号.

  • 8.

    Kobayashi, F. et al. Quality evaluation of sake treated with a two-stage system of low pressure carbon dioxide microbubbles. J. Agric. Food Chem. 62, 11722-11729 (2014).

  • 9.

    小林史幸, 桜井博志. 液状物の処理方法. 特許第6089718号.