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第41号:武蔵野市が主催「土曜学校・富士アニマルファーム探検」

吉村 格(准教授/副牧場長)

2009/6/15 更新
 そもそも高い専門性を売りにしている大学という組織の人間にとって、まだ社会性をもつまでには至っていない小さな子供たちを相手に、しかも1泊2日の生活にまで立ち入って実施されるこの地域貢献という仕事は手に負えるものなのかどうか?今回も結論を出せないまま大雨を縫ってやって来た都会の子供達を引き受けた。
 彼らは武蔵野市が主催する土曜学校富士アニマルファーム探検の隊員達である。ナント100人の中から抽選されたという30人の運の良い子供たちである。武蔵野市が主催するイベントの中でも人気は最も高いランクに位置しているという。
 狭き門を応募してくる子供たちの願いと行政の期待に応えるために、今年度から我が大学でもしっかりとした枠組みと組織の中で実施されることになった。さらなる飛躍と発展が期待されているという。今回はその第一歩目となる。これらの仕事を担う教職員、参加した学生達の顔つきは実に頼もしい。
 また、それらが一線に並んだときの現場での戦闘能力には毎回のように驚かされる。善意の固まりとしか言いようのない佐々ポン先生率いる「知の実戦部隊」は、今回のちびっ子ギャング達に対して地域貢献という大学の御旗を守り抜くことができるだろうか。
 元々、理科が嫌いな子はいない、生物が嫌いな子はいないはずだ。ならば我々は彼らの天性を信じ「子供動物博士」としてすくすくとその芽を育てることはできないのだろうか。ここで教えたいことは山ほどある。牧場の柔らかく弾むような土の上を歩かせたい。そこから勢いよく伸びる牧草を刈り取って家畜に与えさせたい。草食動物が草を消化・吸収するメカニズムの神秘を覗かせたい。資源であるほどよい臭いの堆肥にも触らせたい。人間の生命を支えてくれている家畜という動物にも暖かい血が流れていることを感じてもらいたい。少しばかりは仕事の厳しさを教えて彼らのお父さんの立場も良くしたい。なによりも皆でつくったものを一緒に楽しく食べて互いの労をねぎらいたいと、我ら教職員は勝手に夢を膨らませたのである。
 しかし事はそう簡単に進むものではない。我らの思い描いた夢を躓かせてくれるのが都会の雰囲気を引きずった子供達である。自分の口から出た言葉がどのように人の心を傷つけるか気づかず、また子供達の行動が凶暴と隣り合わせであったり、やる気満々の我ら教職員のポテンシャルが急降下する場面に出くわすことがある。
 ここで疲れた教職員を押し退けて登場してくれたのが一騎当千の学生達の戦闘能力である。一点突破全面展開、彼らはちびっ子ギャング達に対してスキンシップを基本にしながら友愛を説いて無理なく素直に服従させていく。若さ溢れる頑強な肉体は飛びかかってくる子供達の数が多ければ多いほど激しく燃え上がり、ここ富士の麓で子供達が都会から背負ってきたそれぞれの様々な憂鬱や鬱憤を一緒になって焼き尽くしてあげるのであった。
 果たして、今回もまた地域貢献という身の丈以上のものを背負った過重な疲れと完成度の高いイベントをなんとか乗り切ることができたという達成感が相殺され、「我々の手に負えるのか否か」という問題意識は次回の準備が始まるまで深い闇の中へと沈んでいくのである。