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第45号:受胎告知

吉村 格(准教授/副牧場長)

2009/9/18 更新
 そもそも富士アニマルファームにおける実習とは、学生達が五感をもって畜産の現場で実物と対峙し、教員から座学で教えられたことの真偽を自身の言葉で反芻する作業であり、さらに初心に戻って自分の動物の専門家としての将来の夢を問う場所でもある。その実習課目の中で最も基礎となるのが「栄養学」と「繁殖学」の現場における実践である。
 2年次動物科学科の実習では、これまでも「栄養学」においては担当する教員が本学から出向き、座学で教えたことを検証し体験させるということが行われてきたが、「繁殖学」を指導する教員は残念ながら参加できずにきた。しかし生産現場における絶対的な必要性を考慮し、能力的には負えないことは承知の上で我々場員がその任を受け、言葉足らずで浅薄しかもセクハラまがいの講義を行って多くの顰蹙を買ってきたことは事実である。学生達に対して「繁殖学」の話をするということは実に厄介で苦痛なことであった。
 そういう中で新しく赴任した牛島教授が実習に参加した。学生達に牛の子宮や卵巣などの実物の屠場臓器を見せながら体内における配置や構造、その特徴を丁寧に説明し、次に実際の牛を使って直腸検査を一人一人に体験させ、その後にヒトと家畜の繁殖方法の違いを行動学と共にさらりと言い終えた。実にウマイ!さらには教授の専門分野で人工繁殖技術の一つである受精卵の回収とその移植の手技を学生達の前で手際よく淡々とやってのけた。実にお見事!!幸運なことに、供卵牛として多排卵の処置を施したたった1頭の黒毛和種のホルモンへの反応も良く28個の受精卵が回収された。学生達に顕微鏡下で観察させた後、その内の2個を性周期が同期化された褐毛和種に移植し(写真は授精後50日の胎児)、残りは雌雄判別の後に良質のものがあれば後日改めて移植をすることになった。今後の経過と展開が楽しみである。新しい生命の誕生を学生達と見守っていきたいと思う。
 今回の「栄養学」と「繁殖学」の両輪がうまく噛み合った実習は、学生達に動物のことを学ぼうと希望して我が大学に入学したことを改めて思い出させたに違いない。キラキラと輝く彼らの目がそれを証明している。武蔵境と富士ヶ嶺、本学の体制と富士アニマルファームの態勢、座学と実学の違いに戸惑うことも多いが、心ある教員がなんとかその隔たりに橋を架け、学生達が未だ鮮明には描けていない動物たちとの将来の夢をわかりやい形で提示しようとしている。その努力を積み重ねている教員の後ろ姿に学生達が少しでも興味と関心を示してくれたらと願う。その関係こそが大学付属牧場の質を担保する学生と教員の出発点だと思っている。