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第52号:贈る言葉「冬来たりなば、春遠からじ」

吉村 格(准教授/副牧場長)

2010/3/8 更新
雪景色
 異常気象のせいか、予想のつかない厳しい寒さに「冬来たりなば、春遠からじ」と自分の心を励ましていたら、先日は全国的に春一番が吹き荒れ、ここ富士アニマルファームでも雨を伴った春の嵐であった。冬の寒さを思い出させる日陰の残雪もその暖かな雨で一気に融けてしまい、有り難いことに春の日差しは頑なになりそうな私の心まで解かしてくれる。正真正銘の弥生3月を迎えた。それでも標高が1000メートルの富士アニマルファームにあっては、三寒四温で時としてひんやりすることもあるが、小鳥のさえずりは、確かに春が来たことを知らせている。通勤路でも、裾野から標高に合わせて満開、五分咲き、三分咲き、そして蕾からいざ咲かんとするそれぞれの梅たちが、様相を変えながら素朴で淑やかな草花と共に春になったことを感じさせている。これから北上を続ける桜前線の到来までの富士の自然の移ろいは、「循環」「再生」「復活」そして「挑戦」などの言葉が妙に心に馴染む季節である。
 さて、先週は獣医師国家試験が実施された。受験した学生にとっては、幼い頃からの夢と大学6年間の全てをかけて挑んだそれぞれの思いが詰まった戦いであったと思う。冬の厳しい寒さにめげず、真っ向勝負で頑張った分だけが結果となってついてくるはずだ。願わくば彼等の全ての努力が報われ、かっての日獣大のように全員合格、もしくはそれに準ずる成績であって欲しいと願わずにはいられない。彼等と初めて会った1年次の臨床実習の挨拶で「君達なら100%が可能だ」と臆面もなく励ました記憶が生々しく蘇ってくる。その後の実習でも彼等は素直で、真面目で、しかも優秀で、少しずつ無理なく大人へと成長し我々動物飼養者の熱い思いに応えてくれた。彼等の一人一人の顔を思い浮かべながら、来週の合格発表では全員が獣医師としてのスタートラインに就けることを衷心より祈っている。
 さらに思うのは、スタートを切ったら若さを燃焼させ、希望に向かって精一杯走り出して欲しい。彼等は必ずや一隅を照らす存在となるだろうが、動物の命を扱う獣医師という仕事は社会的な人気に比べ必ずしも華やかなものではないかもしれない。動物のために技術を磨くということは、毎日毎日同じ事を繰り返していく地味な作業の連続でもある。その地味な作業の繰り返しを大切にすることで、それらを努力して積み重ねてこられた職場の先輩達とやっと語り合えるようになるだろう。その間には恐らく衝突や軋轢、また自信喪失に陥ることも幾度かあるに違いない。私の知る彼等ならきっと大丈夫だと思いながらもその点だけが少し気がかりである。確かに若さは素晴らしいが、まだ彼等には積み重ねた経験がない。巣立っていくそんな彼等の「春」を祝して心配性の私から贈る言葉はやはり「冬来たりなば、春遠からじ」である。