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第57号:こんなこともやってます

吉村 格(准教授/副牧場長)

2010/6/24 更新
外科的移植
かって日本畜産学会の学会誌は人工繁殖技術の研究で紙面が覆い尽くされた時代があった。その頃のウシ受精卵の移植技術の進展は実に華やかで、日本における基礎を築かれた金川先生・鈴木先生、屠場由来の卵巣を利用して体外受精に成功をされた花田先生、現場での移植において数々のアイデアで高い受胎率を保持された山科先生、全国を受精卵の凍結保存技術の普及のために行脚された武田先生などのスター軍団が先陣を切って走られていた。
それでも国が普及を目指していた黎明期の子宮頚管経由法での受胎率はまだ低く、「受胎の成否に自分の首がかかったら、外科的な移植を実施したい」というのが技術者の率直な意見であったろうと思う。今日では簡易な子宮頚管経由法でも人工授精と同様に50%の受胎率を望むことは無謀なことでなくなり、既に現場における主流な技術として定着している。それ故に、煩雑な外科的移植法はほとんど実施されることも振り返られることもなくなってしまったが、さらに極めて高い受胎率を目指すことを考えた場合その技術の可能性は捨てきれず、大学の付属牧場で繁殖の基礎技術の一つとして伝承しなければならないのではないかと以下の者達で取り組むことになった。
牛の帝王切開手術の鬼である後藤獣医師(OB)、卵ころがしの達人である牛島教授、衛生観念には人一倍うるさい水谷講師である。過日、このクラシカルな人工繁殖技術の体系に体当たりで挑戦した。後藤獣医師が受卵牛の右側ケン部を切開し、子宮を移植しやすいところまで引っ張り出した。牛島教授は凍結してあった受精卵を融解し、注射器へ充填した後に子宮角の先端近くに刺し込んで移植した。水谷講師は二人の間に入って無菌操作や牛の状態の確認に目配りしながら進行の音頭をとった。
はじめての外科的な受精卵移植の実践であったが、何回も訓練したかのように3人の息はピタリと合い、技術的には何の問題もなかったと思う。残念ながら今回は受胎までに漕ぎ着けることができなかったが、計画は立案から作業の実施まで楽しい大人の時間をもたらしてくれた。今後も大学の付属牧場で伝承しなければならない技術をチャンスをつくっては挑戦し、一つ一つの記録を皆で協力して積み重ねていきたいと考えている。