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第60号:「生き方」

吉村 格(准教授/副牧場長)

2010/7/14 更新
富士アニマルファームの搾乳規模は32頭である。今後もこの頭数を維持しようとすれば、乾乳牛7頭、初妊牛4頭、育成牛6頭、北海道への預託牛7頭、哺乳牛4頭程度の割合で常時繋留し効率的に回転させなければならないだろう。ここ2-3年でようやくその体制が出来上がり、運営はもちろん実習や研究にも支障がないようになってきた。現在、全国的に乳牛の更新率は25%程度であるので、それに準ずれば富士アニマルファームでは年間8頭の初妊牛の分娩とそれに見合う廃用牛の淘汰ということになる。淘汰の理由は、不受胎、乳質の悪化、低能力などで、生きることに何ら差し障りのない牛達である。
これらの廃用牛は、手持ちの資源を有効活用することを目的に、5月と10月に実施される獣医学科の臨床実習に向けて飼養管理が調整され利用し尽くされる。牛達は内科実習や外科実習、そして繁殖実習に供用され、その期間中は獣医師となる学生達の未来のために耐え忍ばねばならない。これまで可愛がってきた牛達が実習の勤めを終え、クタクタに疲れボロボロになった姿を見ると本当に申し訳ないと心から思う。その後一ヶ月程して体力を取り戻し、実習で受けた傷が癒え、食料としての価値が出てくると屠場に向け搬出され、家畜としての「生」を全うすることになる。
資源の有効利用とはいえ「命」ある存在である。動物達の苦痛を目の当たりにしながら、ヘラヘラと笑って実習に参加している学生に対しては老婆心ながら一言二言の苦言を呈する。将来を担う学生達に少しでも臨床経験を積ませてやりたいとする教員の熱意と、耐えながら我が身を精一杯に使い切って頑張っている動物達のお陰で成熟した実習が毎年継続されている。批判は覚悟の上である。
過日、このようなレベルの実習ができるまでになった富士アニマルファームの基礎を築いた佐藤修平さんの訃報が奥様から届けられた。人間と動物とを一緒に扱ってはならないが、ここを辞められた後も故郷の新潟で好きな仕事を続け、我が身を精一杯に削って使い切ったところで穏やかに亡くなられたという。仕事を通して自分を創造し、自身を理解した人であった。私にとって佐藤さんの思い出は尽きることはないが、願わくば、もう一度だけ、あの日と同じように一緒に楽しい酒を飲みたかった。汗に汚れた小さな後ろ姿に頭を下げたかった。「先生は間違っていない」と私の肩を叩いて欲しかった。ご冥福を祈りたい。合掌。

写真は【佐藤修平さんとの別れを惜しんだ送別会の写真】です。