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第77号:「草喰う羊」

吉村 格(准教授/副牧場長)

2011/7/1 更新
 「種を播くヒト」から半年。明るい日差しと暖かさに反応してか放牧地内の独立栄養を営む草達は漸く成長を始めた。播いた牧草の種子が雑草との競合に負けるかもしれないとやきもきもしたが、梅雨に入ると伸びる勢いは頭一つ分だけ雑草に競り勝つことができた。牧草の占める割合が多くなり放牧地はなんとか順調に草地らしくなってきている。下界よりも1ヶ月遅れの春の訪れであるが苦労は報われた。
 それでも放牧地内の牧草の伸び具合は、一部はなかなか見事であり、一部は雑草に負けて無残であり、そしてほとんどの所では普通である。まるで私の人生のようである。牧草の種が落ちる秋口頃に放牧を始めようか、草地を痛めないためにどの家畜を放牧しようか、などと悩んでいたが過日思い切って緬羊を放した。緬羊に3週間腹一杯草を喰べさせ、その後にトラクターで残草刈りを行って牧草の生育のバラツキを解消した。
 雪が解け、桜が咲き、家畜に子が産まれ、繁った放牧地の草がその命を支える。それらの循環に人間が少しだけ手を添えればよい。事象はそれぞれに諸行無常であるが、一年一年と巡っては繰り返される。それに立ち向かう技術と前向きな気持ちさえあれば我々の苦行も瞬時に過去のものとなっていく。これからの暑い夏に牧草の成長を期待し、秋の実りを楽しみ、冬の厳しさを春に分娩を迎える家畜と共に乗り越えたい。
 私の人生の喜びの多くは「農業」という職業を選択したことによってもたらされている。
自然は絶え間なく円を描き、そして我々の行いも円を描いていることを理解させてくれた。
その間、私は少しでも成長しようとして努力し、人の役に立てるようにと社会的な役割を担ってきたつもりである。多くの人のお陰で心の成熟もさせてもらった。「草喰う羊」を眺めていると畜産の全景と私のこれまでの人生ドラマとが重なり合っていく。