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第83号:「君はなんと美しいのだ」

吉村 格(准教授/副牧場長)

2011/10/17 更新
発情雌

発情雌

 動物にとって親になることは真に正しい生き方である。親になるためには親と同様の、その種にとって理想的な繁殖行動をとることが不可欠となる。新しい繁殖の仕方など全く関係なく必要でもない。その繰り返しによってのみ種は維持され長い歴史を生き延び続けてきたのである。
 結果から見れば、種としての特徴はその綿々と続いてきた繁殖の仕方によく現れると言ってよい。外部からは発情も自分自身の排卵さえも分からないヒトと違って、自分の子孫をいかに効率的に多く残すかという一般動物の戦略では雄の受け入れ態勢のわかりやすさは重要な要素である。
 シバヤギの1頭が発情した。1日中、雄を求めて艶のある声で泣き続ける。壁に遮られた雄はメスを確認しようと精一杯に身を乗り出しているが愛らしい姿を見ることは出来ない。角を壁に擦り付け、フレーメンを繰り返し飛散するフェロモンを捕らえながら雄の苛立ちは頂点に達する。
 せつない目、愛らしい口元、ピンクに染まった乳頭。女性ホルモンの影響下で魅力的になった彼女。いつもは近づくと所狭しと逃げてしまう彼女であるが今日はとてもお淑やかである。そんな受け入れ態勢のできた彼女の耳元で雄山羊に代わって私は囁く「君はなんと美しいのだ」。