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第115号:-大動物の外科実習で学生が学ぶこと-

原 康(教授/臨床獣医学部門)

2014/07/31 更新
 約25年前に都庁が新宿に移転して以来、中央線沿線はめざましい都市化を成し遂げています。キャンパスのある武蔵境においてもその影響は大きく、周囲の都市化が進みました。その影響もあり、現在では牛や馬を含む大動物の飼育そして診療をキャンパス内では実施出来ない現状があります。しかし、獣医師に求められる社会的要求は小動物臨床だけではなく、海外からの運ばれてくる食品や動物の検疫、食肉の衛生検査や、産業動物の健康を守ることにより安全・安心な畜産物の生産を維持するなど、多岐にわたります。
 農林水産省の調べでは平成24年度の獣医大学卒業者のうち、産業動物へ就職した獣医師は8%でした。特に本学では小動物臨床を志して入学する学生が多く、また前述のような立地条件も相まって普段の学生生活のみでは産業動物への興味や関心を維持することが難しい現状があります。そこで、進路を考える始める時期である獣医学部4年次・後期と5年次・前期に大学の牧場施設である富士アニマルファームにそれぞれ3日間滞在し、大動物の内科学、臨床繁殖学、そして外科学に関して学ぶ機会が設けられています。この実習では朝5時半から実習が開始され、朝食前に牛の健康管理、傷病動物の治療などを行います。その後は午前・午後を通して各科の実習が行われ、夕食後に次の日の実習に関する講義が行われ一日が終わります。
 普段は伴侶動物として飼育されているイヌやネコに触れる機会が多い学生は、最初、家畜として馴化されているとはいえ、捕食される側である動物とのコミュニケーションの取り方にとまどいます。また同時に牛の大きさや力強さに圧倒され、恐怖さえ感じます。さらに清潔度の高い手術室で高度医療機器にかこまれ、麻酔師が全身麻酔を実施して行われる附属動物医療センターでの小動物に対する手術とは異なり、牛が局所麻酔実施後、起立位で手術される様を知ることで大動物の生命としての強靱さ、小動物臨床との違いに気付かされます。また、産業動物であるが故に使用できる抗生物質や治療薬に制限があり、投与方法によって畜産物の出荷制限日数が異なることを学びます。さらには獣医師による治療の効果が緩慢であり搾乳量が低下すると、それが直接農家の負担になることにも気付かされます。
 この実習を通して、産業動物の実際を体験した獣医学生たちは、5年次の夏期休暇を利用し、全国の農業共済などで大動物の治療を行っている獣医師の指導の下、実際の治療現場を2週間にわたり体験する実習を受けることになります。
 この様な実習プログラムの効果がどの程度関連しているかは定かではありませんが、昨年度、本学を卒業した獣医学科学生の11%が卒後の進路として産業動物獣医師を選択しています。今後も、学内での座学に留まらず積極的に産業動物の現場へ学生を赴かせることで、都市部の大学でありながら獣医師の大きな社会的使命の一つである産業動物の健康・疾病管理の重要性を学生へ発信していきたいと考えています。