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牧場だより「継・いのち」

日本獣医生命科学大学 日本獣医生命科学大学

第130号:牧場の獣医さんの仕事

水谷 尚(講師)

2015/03/06 更新

牧場勤務になってそろそろ8ヶ月になろうとしています。東京での生活とは大きく違う日常に戸惑いつつも何とか仕事のリズムを掴みつつある今日この頃です。

さて、前回、牧場勤務となったお話しをし、その大きな目的についても説明しました。では、実際、牧場での獣医さんの仕事とはどのようなものであるかについて、今回は話をしたいと思います。

多くの皆様が抱く獣医師のイメージは、おそらく、動物病院にいて、来院する動物を診察するというものでしょう。これはこれで間違いないのですが、牧場の獣医さんは少しばかり様子が違います。これは大きな動物の獣医さん全般に言えることなのですが、大きな動物を病院に連れてくることは難しいため、動物のいるところに獣医が赴くという形をとります。いわゆる往診です。牧場の場合、その場所に動物がいる訳なので、長距離の移動は有りませんが、動物のいる場所に行って診察を行わなくてはいけないことには変わり有りません。当農場ではほとんどの動物が畜舎内にいるので、野外での仕事はそれほどありませんが、冷暖房が効いているわけでは無いので、小動物の獣医さんがうらやましくなることも時折あります。

話を戻して、牧場での獣医さんの仕事ですが、これは実に多方面に及びます。

まずは動物の治療です。飼育している動物が病気にかかった時、あるいは怪我した時、必要な治療を施していくと言うことです。また、動物が何らかの病気にかかっていないか、怪我をしていないか、ストレスを感じてないかなど、動物の健康上の問題をできる限り早く見つけそれを解決していくのも重要な仕事です。この業務は、多くの方々が獣医師に対して抱くイメージ通りの「動物のお医者さん」としての仕事だと思いますし、実にやりがいのある仕事です。自分の行った治療によって動物が元気になる姿を見ると、獣医師となって本当に良かったと感じます。

しかしながら、もし、動物が病気や怪我をした場合、その時点で農場は、その動物から生産が出来なくなるわけですから、損失が発生することになります。この損失は、その動物が獣医の治療で治ったからと言っても取り返すことは出来ません。このため、農場は獣医に対して、病気や怪我を治すという「治療」という業務だけではなく、病気や怪我を未然に防ぐという「予防」というものをより求めてくることになります。従って、日頃から農場全体に目を配り、病気や怪我の原因となる部分をできる限り早く見つけ、予防措置を提案・実行していくことが求められます。例えば、感染症に対して外部からの病原体の進入を防ぐための消毒や衛生管理の提案をしたり、必要に応じてワクチンのプログラムを作ったりすることをしなければなりません。また、怪我や生産病※の原因となる施設(例えば、牛舎や運動場)や機器(例えば搾乳機など)の整備状況を把握するのも獣医の仕事となります。

更に牧場の獣医さんに求められるものとして、農場の生産性の向上という大きな課題があります。農場は食糧を生産するという大きな目的があって、動物を飼っています。また、そうすることによって利益をあげるという経済活動を行っています。このため、より効率よく生産活動が出来ることが望まれるわけです。しかしながら畜産は動物という生き物を相手にしているわけで、生産用の機械を扱っているわけではありません。動物たちを上手に育て、飼育する中で、最大の利潤を追求しなくてはいけません。そのためにどのような飼育方法をとれば良いのか、餌はどうしたらよいのか、飼育環境はどうするのか、繁殖は….などなど、考えなければならないことは多岐に及びます。

私が本牧場で、具体的にどのような仕事を行っているか、どのような事例に遭遇し、どのような解決法をとっていったのか、あるいはどのようなドジを踏んだのか….. これらについては追々紹介していこうと思います。まずは、本学で初めての農場獣医師を目指して、日々精進していく所存であります。

※生産病とは、家畜の高能力化のための育種選抜、多頭羽飼育あるいは集約管理等、家畜の生産性を高度に追求することによって起こる疾病です。

牛の治療 牛へ鍼治療をしているわけではありません。
これは手術のための麻酔をしているところです。
牛の健康管理には様々な機材や情報を用います。
データ管理にはパソコンは必需品です。