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第173号:薬剤開発に役立つ新鮮な牛乳

日本医科大学 医学部 基礎医学
生化学・分子生物学(代謝・栄養学) 准教授 岡本 研

2017/04/21 更新

タンパク質結晶の作製風景
とても繊細な作業で、根気と集中力が必要です

アニマルファームからいただいた
牛乳から作ったタンパク質結晶
ビタミンB2と鉄を含むので紅茶色に見えます

 このたびは新鮮な牛乳を分けていただきたいという突然な願いを快く聞いてくださいまして、吉村牧場長をはじめとするスタッフの皆さまには心から感謝しております。なんで医学部の生化学にいる人間に新鮮な牛乳が必要なの?牛乳を使ってどんな研究をするの?多くの人がそう疑問に思うでしょう。実は牛乳と医学研究、医薬品開発には重要なつながりがあるのです。
 牛乳にはキサンチン酸化還元酵素(長い名前なので、以下XORと略します)というタンパク質が大量に含まれています。XORが牛乳の中に存在することは100年以上も前から知られていました。乳汁に含まれる理由は長い間不明でしたが、最近なって乳脂肪が乳汁中で小粒子を形成する際に働くことが明らかになりました。XORにはもう一つ核酸代謝という重要な働きがあります。医学部では主にこちらの機能を研究しています。アデニン、グアニンといった核酸の構成成分(プリンといいます)は体外に捨てられる際に尿酸という物質に代謝されます。尿酸は溶解度が低く、何らかの理由で体内の尿酸濃度が高くなると、関節内に尿酸の結晶ができてしまい、強烈な炎症反応を引きおこします。これが痛風という病気です。治療法としてXORの作用を止めてしまう物質(阻害剤といいます)を服用すれば、体内でできる尿酸を抑えることができ、痛風発作は起きなくなります。最初の痛風治療薬は50年前にアメリカの化学者エリオンらにより開発されました。エリオンはその功績により1988年にノーベル医学・生理学賞を受賞しました。その後50年ぶりに日本の製薬会社により相次いで新薬が開発されました。新薬の名前をフェブリク、トピロリックといいます。皆さんのご家族にも服用している方がいるかもしれません。これら新しい薬を開発する際に日本のホルスタイン牛の牛乳から精製したXORが使われました。タンパク結晶構造解析という手法を用いてXORの正確な構造を明らかにすることにより、そこに結合する化合物の設計がコンピュータを使ってできるようになり、薬の開発が可能になります。これを構造ベース創薬といい現在の創薬の主流となっている手法です。この方法を用いるためにはXORの結晶を作る必要がありますが、これには、なるべく新鮮で質の良い牛乳を使ってタンパク質を精製しなければいけません。うれしいことにアニマルファームからいただいた牛乳からはとても質の良い結晶が得られました。
 また、もう一つの質の良い結晶を作る手段として、宇宙空間で結晶を作る、というものがあります。私たちはJAXAと共同研究をしていて、過去2回にわたり国際宇宙ステーション「きぼう」での実験を行っています。牧場から頂いた牛乳がいつの日か宇宙に行くことがあるかもしれません。