食のいま

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第40号: ~人工霜降り牛肉~

私の研究室では食肉の美味しさについての研究を行っており、毎年4月に新3年生が入室すると、高級霜降り牛肉を実際に食べてもらいその美味しさを味わってもらうというのが恒例となっています。もちろん研究室で提供するのは天然(?)の霜降り牛肉ですが、市場には人工霜降りの牛肉というものが存在することを皆さんはご存知でしょうか?
人工霜降り牛肉は主に安い外国産のカウミート(搾乳後の乳牛の肉)のブロックに100本を超える注射針を差し込み、牛脂や軟化剤を注入して作成します。そうすると硬い赤身の肉が軟らかくジューシーな霜降り肉へと変身するのです。さらに脂肪を注入した分、目方も増すので一石二鳥というわけですね。
この様にして作られる人工霜降り牛肉、皆さんはあまり聞き覚えがないと感じるかも知れませんが、年々その市場規模を拡大しており、今では年間6000 トンも出荷されているそうです。これを150gのステーキに換算すると4千万食分に相当するわけですから、かなりの量が市場に出回っているということですね。提供先は主にコストパフォーマンスが売りのファミレスといった外食産業がメインのようです。
ここで誤解しないでもらいたいのですが、私はこの人工霜降り牛肉を否定しているわけではありません。むしろ安い肉を美味しく食べられるように加工しているわけですから、すばらしい技術だと考えている位です。私が問題だと思うのは消費者が人工霜降り牛肉を人工霜降り牛肉と知らされずに口にしているという事です。食品は素材のままならちゃんと表示義務がありますが、いったん調理をしてしまえば、とたんに表示義務がなくなります。この人工霜降り牛肉も最近話題の食品偽装などに使われる前に、きちんとした表示義務の徹底が必要ではないでしょうか?
皆さんも今度外で牛肉を食べる機会があれば、お店の方にそのお肉が何であるかを聞いてみるのはいかがでしょう?意外にも美味しいと食べていたものが、実は人工霜降り牛肉なんてことがあるかも知れませんね。