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第66号: 下ごしらえを工夫した野菜は、“リラックス”効果がすごい!?

 みなさんの食生活に欠かすことができない野菜。その中でも、毎日の食卓で特に頻繁に登場するミニトマト・ナス・ジャガイモには、 “リラックス”効果を有する機能性成分のGABA(γ-アミノ酪酸)が含まれています。100gあたりのGABA含有量は、ミニトマト約35mg、ナス約32mg、ジャガイモ約28mgとなります1)。しかし、ヒト生体内でリラックス効果が発揮されるGABA量は100mg2)なので…ミニトマトの場合、中サイズのミニトマト1玉あたりを約15gとすると、約20玉のミニトマトを食べなくてはいけません。ナスとジャガイモなら中サイズ(約100g)をそれぞれ約3.5本(個)ずつです。この量は野菜好きの方でもなかなか厳しいものがありますよね。とはいっても、実はこれらの野菜の下ごしらえを工夫するだけで、普段食べる量から効果的なGABA量の摂取が可能になるのです!
 その下ごしらえを紹介する前に、“リラックス”状態とGABAの関係について説明します。気分の落ち込みや精神的な不安がある人は、そうでない人と比べて血中のGABA濃度が低いことが報告されています3)。また、健常な男女にGABAを経口投与したところ、リラックス効果を示す脳波のα波が上昇することが確認されました2)。これ以外にも多くの報告があり、GABAと精神状態との関係が深いことはわかっていますが、実際のところ、その詳細なメカニズムについては不明な点が残っているのが現状です。
 では、いよいよGABAを増やすための簡単な下ごしらえについてです。ポイントは、野菜を①切った後に旨味成分が多い食材と混ぜて、②空気を遮断し、③室温で一晩(~24時間)放置する、以上3点です。まず、植物体内でのGABAは、旨味成分であるグルタミン酸(Glu)を基質とするGlu脱炭酸酵素(GAD)の反応により生成されます。このGADは、嫌気状態などのストレス条件下で、約50℃程度を好むと報告されています1)。しかし、ジャガイモのGADの至適温度について、私たちの研究グループで調べたところ、25℃の室温でもGADのGlu分解率は60%(このとき30-50℃下で、分解率80%)程度だったことから、GABA生成を十分に促進できる温度帯だと考えました。また、野菜を切ることは植物にとってストレスとなるため、GADが活性化され、同時にGluとGADの接触部位を増やすことに繋がります。さらに、GABAは熱に強いので、下ごしらえ後に加熱調理をしても失われることはありません。上記ポイント3点が実現できると、100gあたりのGABA含有量は最大、ミニトマト約200mg、ナス約375mg、ジャガイモ約200mgまで大幅なUPが期待できます1)!!そうなると、ミニトマトは約4玉、ナス約1/3本、ジャガイモ約1/2個にあたります。これなら食べられそうですね。
 最後に、具体的な調理方法について下記に紹介します。ストレス社会に生きる現代ですが、普段の食生活のちょっとした工夫で是非“リラックス”効果を得てください。

▲GABA富化後のミニトマトを使った冷製スープ

・サラダやマリネにトッピング用のミニトマト
ミニトマト4玉を1/2~1/4玉にカット→おろしたニンニクとポリ袋内で混ぜる→空気を抜いてしっかりしばる
→一晩(~24時間)放置

・炒め物用のナス
ナス2本の皮をしま目にむき、乱切り→輪切りにしたレンコンと一緒に水に浸す(水は野菜が浸る程度)
→一晩(~24時間)放置 (→浸漬後の水もとろみ付けなどに使ってください)

・スープ用のジャガイモ
ジャガイモの皮をむき、角切り→ドライトマトと一緒に水に浸す(水は野菜が浸る程度)
→一晩(~24時間)放置 (→浸漬後のドライトマトと水も調理に使ってください)

参考文献
1)大野一仁ら,愛媛県工業系報告,45, 29-34, 2007.
2)Abdou AM, et al., Biofactors, 26, 201-208, 2006.
3)Petty F, et al. Psychopharmacol Bull,26, 157-61, 1990.