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第71号:鳥インフルエンザに思う畜産物の適正な価格

 今年の冬は、例年以上に高病原性鳥インフルエンザが猛威を振るっています。殺処分された鶏は、2月15日の時点で1478万羽と全飼育数の1割に上っていることが報告されています。福岡県下のスーパーでは卵の供給量が従来の1/10程度まで減少し、品薄になっているとの報道もありました。実際に、鶏肉や鶏卵の価格は昨年の1.3倍に上っているようです。円安による飼料の高騰や燃料費をはじめとする物価高もありますが、供給量が減っていることも大きな要因と考えられます。
 先日、東京都の家畜保健衛生所から小宅に荷物が届きました。恐る恐る箱を空けてみると、1L容器に入ったエタノールが入っていました。我が家にも庭先に烏骨鶏がいるため、家畜伝染病予防法に則り、同衛生所に届け出をしているのですが、数羽しか保有していない家禽管理者にも気を配らねばならぬほど、事態は深刻なのだと思われます。
 物価の優等生と言われ続けた鶏卵。畜産インテグレーションの発展と共に、徹底した経費削減によって低コスト・低価格を維持してきましたが、それが生産物や生産する動物に対して適正な価格になっていたのだろうかと不安に思うことがあります。
 我が家の烏骨鶏は産卵に際し、低く身を屈めて息を潜め、30分近い時間を掛けて1つの卵を産み落とします。いつもは騒がしい雄も、この時ばかりは神妙な面持ちで大人しく産卵の様子を見守っています。無事に卵を産み落とした後には、普段鳴かない雌が「コケーコッコ」と歓喜の叫び声を上げて大役を果たしたことを皆に知らしめています。まだ体温を感じる産みたての卵は、鶏の命そのものであり、また私達の糧でもあるのです。綺麗にパック詰めされて陳列している卵にも、産んだ鶏とその命の物語があると思うと、少々値上げされた現在の価格の方が本来の姿なのではないかと思えてきます。
 2022年1月からカリフォルニア州では、動物福祉に配慮した平飼い飼育以外の卵を販売しないことを決定しました。持続可能な畜産を考えると、日本も畜産物の適正な価格や動物に負担の少ない飼育方法を導入する転換期に来ているのかも知れません。

■参考ホームページ(外部リンク)

農林水産省 「令和4年度 鳥インフルエンザに関する情報について」(2023年2月17日)
https://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/tori/220929.html#2

▲梅の花と烏骨鶏