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アメリカにおける動物看護―パデュー大学留学報告その1―

獣医保健看護学臨床部門 講師 小田民美

 私は現在、アメリカのパデュー大学に留学しています。
パデュー大学はアメリカ インディアナ州北西部に位置するウエストラファイエットという小さな町にあります。冬は雪で寒さが厳しいそうですが、今の時期は1日を通して気温が20~30℃ほどで、ストームが多発することと夕方も日差しが非常に強いことを除けば過ごしやすい場所です。町はほとんどが大学と大学関連施設で占められており、他にはトウモロコシや大豆などの農業と、自動車産業が盛んです。

 パデュー大学は農学、工学、化学といったライフサイエンス分野で有名です。また、世界で初めて航空工学を取り入れた大学としても有名で、多くの宇宙飛行士を輩出しており、1969年に人類史上初めて月面に着陸したニール・アームストロングもパデュー大学の卒業生です。日本では2010年にノーベル化学賞を受賞した根岸英一先生がパデュー大学特別教授を務めていることで注目されました。大学、大学院まで合わせると200以上の専攻があり、学生在籍者数は40,000人以上という巨大な総合大学で、そのうち10~15%は海外からの留学生です。私は現在、大学の獣医学部付属のインターナショナルハウスに滞在しているのですが、パデュー大学は1年中留学生を受け入れており、様々な国の獣医系大学の学生と交流を持つことができ、それぞれの国の獣医学教育や獣医療事情を伺うことができました。

▲パデュー大学付属動物病院

▲ICU(黒のユニフォームが動物看護師スタッフ、
緑は実習中の動物看護学生)

 私がパデュー大学に留学を希望した最も大きな理由は、獣医学科と動物看護学科が併設されている獣医系大学であるという点です。これはアメリカでも大変めずらしく、パデュー大学は1975年から動物看護師を養成するVeterinary Technology Class(現在はVeterinary Nursing Classに変更されました)を設置しており、動物看護学分野では大変歴史のある大学なのです。
 アメリカでは動物看護師の公的資格化が成され、すでに30年以上経過していますが、多くの認定動物看護師(こちらでは全米統一の資格ではなく、各州での認定になっておりRVT、CVT、LVTと称されます)がその高い知識と技術、専門性を活かして幅広い分野で活躍しています。州によってやや規定が異なるものの、獣医師の業務である「診断、予後判定、処方、手術」の基本4項目を除くほぼ全ての業務が、獣医師の指示の下、動物看護師によって可能です。
 パデュー大学付属の教育動物病院は大きく大動物診療科と小動物診療科に分かれています。また、小動物診療科はさらに内科、泌尿器科、循環器科、皮膚科、腫瘍科、放射線科、外科、麻酔科、神経科、眼科、救急診療科、行動診療科などの多数の専門診療科に細分化され、さらに、学生教育のために予防や健康診断などを中心とした一般診療科もあります。動物看護師は専門診療科ごとに配属され、それぞれの科で特殊な業務も行っています。実際に動物看護師が行っている業務を以下に示します。

  • ・入院動物の全ての動物看護ケア
  • ・採血(動脈採血も可能)、採尿(カテーテルや膀胱直接穿刺も可能)
  • ・投薬(全ての経路から可能、処方は獣医師)
  • ・静脈留置針設置、尿カテーテル設置
  • ・気管チューブ挿管、麻酔導入・維持管理(獣医師が麻酔薬のプランを立て、実施は動物看護師が可能)
  • ・創傷処置、皮膚縫合、ギプス固定、バンテージ
  • ・臨床検査(尿、血液検査など)
  • ・レントゲンやCT、MRIなどの画像撮影
  • ・リハビリテーション、歯科処置
  • ・クライアントコミュニケーション(問診やインフォームも行います)

▲小動物外科 大型犬の整形外科手術

▲小動物神経科 犬の歩行解析

▲小動物腫瘍内科 抗がん剤投与

▲画像診断科 担当学生と画像診断医とのディスカッション中

▲小動物用フードの調理室

▲行動診療科スタッフとホームパーティー

 私は現在、病院で1週間毎のクリニックローテーションを組んでもらい、各専門診療科における動物看護師の業務を学ぶために臨床研修を行っています。各診療科における専門的な知識を見て学ぶだけでなく、実際に学生と一緒に獣医診療補助として参加させていただいています。こちらに来て4ヶ月が過ぎたところですが、最初のうちは英語でのコミュニケーション、特に獣医療専門用語が分からず苦労することも多かったのですが、スタッフ皆さん大変親切で、いつでも笑顔で話しかけてくれ疑問にも答えてくれます。また、全診療科をローテーションで回るうちに顔見知りが自然と増えて徐々に不安も薄れ、毎日刺激的で楽しい日々を送ることができています。
 こちらは8月中旬に新学期を迎え、今後、1、2年生向けの講義や実習などにも参加する予定なので、次回は米国の動物看護教育について詳しくご紹介したいと思います。