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心臓弁膜症について

日本獣医生命科学大学 日本獣医生命科学大学

心臓の弁について

心臓は全身に血液を送り届けるポンプの働きをしています。全身に酸素を送り届けて、酸素の少なくなった血液はまず右心房という部屋に戻ってきます。
右心房に返ってきた血液は三尖弁(さんせんべん)を通り、右心室へと入ります。次に、血液は右心室から肺動脈弁を通って肺という酸素交換を行う臓器へ送られ、肺で酸素を受け取ったあとに、肺静脈を通って左心房へ入ります。
左心房から僧帽弁(そうぼうべん)を通って左心室へ入ります。さらに、左心室から大動脈弁を通って、大動脈を通じて全身に血液が送られ、酸素を送り届けて、再び右心房に戻ってくるサイクルを繰り返しています。

このように心臓には4つの部屋(左右の心房と左右の心室)があります。そしてその4つの部屋の出口にはそれぞれ弁(扉のようなものです)があります。この弁は、次の部屋に血液をうまく届けるために開き、なおかつ、一旦送り出した血液が戻ってこないように閉じるという機能があります。この弁の働きにより、血液の流れは一方通行となり、効率よく全身に血液を送り届けることができるのです。

心臓弁膜症とは

これらの弁の機能に障害が起こった状態を心臓弁膜症と呼んでいます。大きく分けると狭窄症(きょうさくしょう)と閉鎖不全症の2つに分類されます。弁の開きが悪くなって弁が狭くなり、血液が通過しにくくなった状態が狭窄症、弁の閉まりが悪くなって逆流が起こってしまう状態が閉鎖不全症です。1つの弁だけでなく、同時に複数の弁が機能障害を起こすこともあります。犬では狭窄症はあまりなく、僧帽弁の閉鎖不全症が圧倒的に多く8〜9割を占めています。

心臓弁膜症になるとどうなる?

どの弁の機能に障害が起きているか、またその障害の度合いによっても症状は異なりますが、一般的には息切れを起こしやすくなったり、手足や顔のむくみなどが主な症状となります。また、失神発作がでることもあります。心臓弁膜症が進行すると、肺の毛細血管に負担がかかり、肺水腫と呼ばれる、肺に血液成分が漏れ出てしまう状態が起こるため、肺での酸素交換がうまくいかず、生命を落とすことがあります。

心臓弁膜症の治療

心臓弁膜症の治療にもガイドラインが発表されており、それに基づいて適切な治療が行われます。一般的には、まず薬物治療(お薬で治療すること)が行われます。しかし、弁機能の障害が高度である場合には薬物治療では限界があり、そのまま放置しておくと心臓の働きが低下してしまうため手術の必要が勧められるような状態になります。一般的に一度肺水腫を起こした犬の中央生存期間は約9ヶ月といわれています。

弁形成術

機能が障害されている弁自体を修復し、弁の機能を回復させる手術です。術後1カ月間程度は飲み薬による抗凝固療法が必要ですが、その後は不要となります。僧帽弁は左心室の心臓の筋肉の一部(乳頭筋)から出ている腱索という細い繊維組織で弁が支えられています。

僧帽弁閉鎖不全症の原因は、弁の変性によるもの(弁の組織が変化し、弁の閉じ方が悪くなる状態)や、僧帽弁逸脱症(弁を支える組織が切れたり、伸びたりすることにより弁の閉じ方が悪くなる状態)や、弁輪拡大(心臓が大きくなっていることにより、弁の周囲組織が拡大し、弁の閉じ方が悪くなる状態)が主なものです。このような場合、患者さん自身の弁の正常な部分を温存して修復する弁形成術が可能なことが多いです。
僧帽弁形成術の実際の方法は、患者さんの弁の状態により様々ですが、人工の腱索を用いて切れた腱索を修復したり、円周が大きくなってしまった弁の周囲(弁輪)を正常な大きさになるよう縫い縮めたりします。