昨年、『魚の名前』をウヒャウヒャ楽しんで紹介したとき、しかし言葉というのは素材としては超一級だなぁ、と思ったものだった。言葉の響き、意味、語源、略し方、類語、対義語…時には笑えるし、感心できるし、感動すらできる。私だけか? これって。
そんな私が「師匠!」と仰ぎたい方を発見した。「ギリシャ語・ラテン語などの語源から覚える、画期的・独創的・オドロキのビジュアル的な解剖学単語集シリーズ」の著者、原島広至氏である。
タイトルはズバリ『骨単(ホネタン)』。表紙にはガイコツがヒャッホー!と踊っている。これだけでもたまらないが、内容はもっとすごい。まず、詳細なホネのイラストがあり、その各部分に漢字とフリガナで名称がふられている。
で、それにかぶさるカタチでもう1ページ使って、英語の名称とフリガナがふられているのである。2枚で1セットなのだ。下のページの端に、縦にズラリと漢字の名称があり、ちょっとズラしてページを重ねると、上のページの端にちょうど英語の名称がズラリと見えるというわけ。
解説はいちいちユニークである。例えば「視神経管(optic canal)」。
ギリシャ語の“オプトス(見ることのできる)”という単語が語源で、ギリシャ語の「目」も“オープス”。ここに恐竜のトリケラトプスが登場。これは「トリ(3)+ケラス(角)+オープス(目or顔)」で「目のそばに角3本」!
あぁ、これでOphthalmology関連の英語は忘れないな。恐竜込みで。
接頭辞「アクロ~(acro-)」の語源はギリシャ語の“アクロス(頂点の、先端の)”で、肩と腕をつなぐあたりの「肩峰(けんぽう=acromion)」はアクロス+オーモス(肩、上腕)で、それがacromionに変化したようだ。これには別枠コラムがあって、高所恐怖症(acrophobia)はアクロス+ギリシャ語のフォボス(恐怖)、アクロポリスはアテネ市の丘の上のポリス(城塞都市)、詩の各行の先端or末端をつないで別の言葉を表す技法「アクロスティック」もアクロスにスティコス(行)をくっつけたもの、などとトリビアがごっちゃりなのだが、なんと日本のアクロスティックである和歌の「折句」まで紹介して、在原業平の東下りの歌が書かれているから、す、すごい! どういう迷路(labyrinth、ギリシャ神話だよ!)なんだ、この方のアタマの中は。
この原島氏が文章とイラストをすべて担当されておられるのだが、イラストは実際の骨格標本を撮影し、それを見ながら「マウスで」描いたという(トリケラトプスまで)。もはやゲイジュツである。しかも原島氏は、お医者さんではないのだ。建築CG作家であったり、サイエンスライターをされていたりはするのだが、どうやら医学専門家ではないらしいのだ。
なのにこの情熱! キッカケは衝動買いした英文解剖学図譜だそうで、脱帽である。出版社からお医者さんまで巻き込んで誕生したこの一冊は、もちろん大評判。『肉単』『臓単』『脳単』というシリーズでブレイク中だ。これらは当館では2階の参考図書(事典・辞書)コーナーに置かれていて、貸出はできないが、そのかわりいつでも見ることができる。
思えば、ご専門の建築パース作成の手法などから、このユニークな立体的合体的図書をつくられたのだろう。「え、ホネ?」などと言わず、ぜひ手にとっていただきたい。ホネの髄までタンノウできること受けあいである。
図書館 司書 関口裕子