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「この一冊」 - 図書の紹介- 201103号 | 「ペンギン救出大作戦~油まみれのケープペンギンを救え」
分類番号は488.66。
当時の報道をネットで読み返すとPeter the Penguinの冒険は大評判だった。本書には自然に惹き込まれるものがある。ぐんぐん読んでしまうのである。もっともっと、一般的に読まれてほしい一冊。
ペンギン救出大作戦
~油まみれのケープペンギンを救え
IFAW(国際動物福祉基金)編:上田一生 訳 (海洋工学研究所出版部 2003年)
2011/02/01更新201103号
それにしても日々のニュースの多いことよ! なのにトップ報道は「旬のネタ」が殆どだ。ネットでいろいろクリックするも追いつかず、そのうち取り紛れてしまう。
本書を読むと、この「2000年ケープタウン沖でのトレジャー号沈没による原油流出事故」は、当時世界中に配信された大事件だったそうだが、リアルタイムで追った記憶が殆どない。あとがきによると、日本は沖縄サミットの真っ最中だったそうだ。
表紙には、ギトギトの油でカラスのようになってしまったペンギンの全身ショット。そして、キレイな海に佇むさっぱりしたペンギンたちの姿。
「ビッグニュースだった」ペンギン救出劇を、本書によって初めて知ることになった。
100ページほどの内容に、ふんだんにカラー写真が使われている。ペンギンの写真と同じくらい多いのは、この救出劇を担った多くのボランティアたちの写真である。
治療を受けたケープペンギン38506羽。ケアに当たったボランティア総数12000人。
一羽一羽、こびりついた油を洗浄し、くちばしや目の中を治療し、リハビリのためにプールで運動させる。ヒナも特別なケアが必要だ。結局、給餌には361トンもの魚を要した。
そして、これら何段階にもわたる膨大な作業のために、生きたペンギンに初めて触る素人も含めて、おびただしい数のボランティアが集まったのだ。
彼らもまた、食べなければならない。そう、ボランティアのためのボランティアが必要なのである。とにかく救う方も、救われる方も、ものすごい数なのだ。
読み進めると、実に多くの団体が登場する。IFAW(国際動物福祉基金)、IBRRC(国際鳥類救護研究センター)といった国際的NGO。SANCCOB(南部アフリカ沿岸鳥類保護財団)、ADU(ケープタウン大学鳥類統計学研究室)など地元の団体。巻末に救護活動がどのような仕組みで機能したか、図の説明があるので参照していただきたい。こういった大掛かりなチームを組まないと、現代の大事故には追いつかないのである。
1994年のアポロ・シー号事件など、これまでの原油流出事故の「経験を生かす」重要性が指摘されている。が、それだけでなく「初めての事態に初めての判断を下す」ことの必要性が印象的であった。
広がった油を除去する間、「油を浴びていないペンギン」を海に入れさせないためにどうすればいいか。その難問に彼らが下した判断は見事だったが、危険な賭けでもあった。それが見事に当たり、900キロの「海のマラソン」をやってのけたペンギンたち(なかでも発信機をつけたピーター、パーシー、パメラ。ペンギンの名前だからか、みんな頭文字がP!)の軌跡を世界中が見守り、一喜一憂し、賭けまで始まったという。本書でも白眉のエピソードなので詳しくはご一読を。
本書には多くの現代的な要素が登場する。大規模災害と多面的な報道(ネットを含む)、世界的な組織とその連携。それらはいち時代前より格段に本格的であり、ある種の感慨がある。しかしそれ以上に心を打つのはやはり、大勢の人の地味で地道でアナログな行動と、生き生きしたペンギンの野性である。痛ましい悲劇であると同時に希望を感じさせてくれるこのドキュメントはやはりおもしろい。人は、そう簡単にはあきらめきれないものであり、やれる事はあるのだと信じたいではないか。
図書館 司書 関口裕子