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【新着論文】イヌの難治性疾患「血管肉腫」の発症メカニズム解明と治療法の開発

論 文 名:
In vitro anticancer effects of alpelisib against PIK3CA‑mutated canine hemangiosarcoma cell lines.
和訳)PIK3CA変異イヌ血管肉腫細胞株に対するアルペリシブの抗腫瘍効果
著  者:
前田まりか1、落合和彦1、坂上元栄2、田中良和1
1日本獣医生命科学大学 獣医学部 獣医学科 獣医衛生学研究室
2麻布大学 獣医学部 獣医学科 解剖学第二研究室
掲載雑誌:
Oncology Reports, 2022 Apr 47(4):84.
Spandidos Publications
doi: 10.3892/or.2022.8295.
研究内容:
 血管肉腫はヒトとイヌで発生する悪性の腫瘍であり、転移速度が速く有効な治療法が乏しいため、予後が悪い疾病です。血管肉腫はヒトでは希少疾患に分類されますが、イヌでは比較的発生頻度が高い致死性の腫瘍です。そのため、イヌの血管肉腫の発症メカニズムを解明し、有効な治療法を探索することは獣医学領域での急務です。近年、イヌ血管肉腫症例における遺伝子変異網羅的解析から、血管肉腫発症個体ではPIK3CAという分子の1047番アミノ酸がヒスチジン(H)から、アルギニン(R)またはロイシン(L)に変化するH1047R/Lが多くみられることが分かりました。本変異は細胞増殖活性を亢進させることが知られています。この領域はヒトとイヌで類似性が高いため、PIK3CA H1047R/L変異に特異的に作用するアルペリシブという薬剤に着目し、イヌ血管肉腫から樹立された株化細胞に対する抗腫瘍効果を検討しました。その結果、PIK3CAに変異がないイヌ血管肉腫細胞に比べ、H1047L変異を持つ細胞株に対して有意に高い抗腫瘍効果を発揮することが分かりました。そのメカニズムは変異PIK3CAによる細胞増殖シグナル伝達経路下流にあるAktのリン酸化抑制によることも明らかにしました。これらの結果から、アルペリシブはPIK3CAが変異しているイヌ血管肉腫に対し有効な治療薬となる可能性が示されました。

 ※なお、この研究は「令和3年度大学間連携等による共同研究(日本獣医生命科学大学・麻布大学)」の支援により行われました。

■研究者情報

落合和彦(獣医学部獣医学科 獣医衛生学研究室・准教授 )
田中良和(獣医学部獣医学科 獣医衛生学研究室・教授)

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