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牧場だより「継・いのち」 第44号 | 畜産実習を通じて
第44号:畜産実習を通じて
長田 雅宏(富士アニマルファーム研究技術員)
2009/8/21 更新
近年、熟年層や若者を中心に農業が注目され、空前の農業ブームが巻き起こっていますが、現実は農家の高齢化が進み、離農農家や耕作放棄地の増加などの問題が生じています。こうした状況下で企業の農業参入が注目され、完全にコントロールされた閉鎖系での農業も一部に見受けられます。
しかし、私は、農業本来の姿とは土地、水、気象などを利用して作物を生産し、家畜を介して循環させることなのではと考えています。同様に、酪農業にも企業的な雇用型大規模経営が増加しています。農業基本法が制定された1961年には全国に41.3万戸の酪農家が存立していましたが、今年3月には僅か2.0万戸となりました。一方で、飼養頭数はおよそ2倍の160万頭まで増加し、経営単位の生乳生産性が上昇するなど、著しい発展をみたと言えます。
しかしながら、これら経営体の土地利用は副次的であり、輸入された購入飼料に依存する施設型、加工型の形態であって、必ずしも持続・循環型とは言えません。この主因は、牛乳の消費減退による生乳価格の低迷です。
私が子供のころには必ず食卓に牛乳があるという生活を送ってきました。時代と共に生活環境が変わり、牛乳はもはや家庭から消えつつあります。農作物全般に亘りこうした現象が起こっていると言えます。日本の農業政策は、今まで世界と競争できる農業づくりに重点を置き合理化を推し進めてきましたが、安心・安全に対する消費者の強い要望に応えるためには多様な農業、農家が必要です。国民の食を支える農家、地域に誇りを持ち資源を生かしながら生産と生活を楽しむ農家など、多様性こそが理想の日本農業の姿だと思います。単純に儲かればいいというのではなく、地域資源を守りながら、いかに経営を持続させるかが重要になってきています。
富士アニマルファームでは、学生たちに農業の楽しさ、厳しさ、そして食料供給を担う大切な産業であることを伝えたく、早朝の作業から夜の講義まで、限られた時間を精一杯活用し実習を行っております。小さな島国である日本では、外国に例をみるような戦略は通用しません。かつての日本的、風土的という微妙な感覚を磨き、農業を次世代に継ぐことの大切さを感じて欲しいのです。
いま農業は新しい人材を必要としています。農業は、21世紀の日本の地域産業を支えるビジネスとして重要な役割を担っていくと考えます。これからの日本農業を担う学生諸君の力を借り、このような状況から抜け出さなければなりません。引き続き熱い実習を行いたいと思います。