教員からのレポート Report

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人工授精講習会 外部受講者の受け入れ

教授 牛島 仁(動物生殖学教室)

 国際受精卵移植学会がまとめた2021年の統計によれば、体外受精技術で生産した受精卵の移植数が百万回を超え、受精卵移植技術は“新たな節目” を迎えたと報じています。国内の利用状況は残念ながら2017年度以降明らかにされていませんが、国内の複数の民間団体が年間1万個を超える受精卵を生産するようになり、体外受精による受精卵生産に移行していることから推察すると、世界の流れに追従しているようです。このような状況の変化に呼応するように、国内の人工授精師が体外受精卵を生産できる免許の取得が求められています。本学はこれまでに30名の外部受講生を受け入れてまいりましたが、本年度は外部受講者7名のうち5名が受精卵移植の実務者で、体外受精の資格取得のため受講しました。

体外受精卵免許講習会の感想

岩手県人工授精師 片桐睦

 講習会に参加させて頂きありがとうございました。私は岩手県雫石で繁殖業務に携わっています。牛の繁殖関係の仕事をしている現在においては、移植業務の中で体内受精卵と体外受精卵を移植していますが、今後は体外受精卵が主流になると考えています。現在の就職先が資格を必要としていることと、日本ET実務者ネットワークが主催する研修会等を通じて先生方とめぐり逢うことが出来たので、本年度の講習会を受講することになりました。
 岩手県内の子牛や肥育もと牛は中央家畜市場に出荷されますが、全国的に見て品種を問わず安価です。岩手県の市場開催日が宮城県と重なっていることも少なからず影響しているので、購買者が利用しやすくなるような対応で改善するかもしれません。酪農家、和牛農家戸数は年々減少傾向にありますが、追い打ちをかけるように、これから15年後を目途につなぎ牛舎でパイプライン搾乳方式は見直され、動物福祉に適った飼養形態へと改善が求められるようです。繁殖和牛農家の中には繋ぎ方式の飼養形態もあるので、和牛においても対応が求められることになります。私としましては、これらの対応にはベストを尽くすだけだと思っています。
 自ら授精所を立ち上げて体外で受精卵生産を実施することはないと思いますが、今後も体外胚生産技術に移行するのに必要になる若手の育成や、農家への啓蒙などにベストを尽くしていきたいと思います。また御会いできるのを楽しみにして精進して参ります。ありがとうございました。  

片桐さん
白髪が片桐さん

スターゼン(株)受精卵研究所 橋元大樹

 スターゼン(株)は食肉の加工・販売、食肉製品・食品の製造・販売等が主要事業内容です。北海道に1か所、東北、九州にと畜場を併設した自社工場を6ヵ所有しており、すべての工場で食品の安全性と品質を確保するための国際認証規格「SQF」を取得して、1日20~60頭を処理しています。厚生労働省から輸出施設の認定を受け、輸出基準が厳しい米国やEUをはじめとし、現在25の国と地域への輸出が可能になっています。
 地域の畜産状況は国内の動向を反映しており、受精卵移植頭数が右肩上がりで、市場での受精卵産子頭数が急増しています。これにより受精卵産子頭数が増えている一方で、社会情勢により子牛市場価格は低迷、また、昨年来の飼料価格、燃料代等の経費高騰により、繁殖農家や酪農家は経営が厳しくなっており、廃業に追い込まれる農家も出ている不安定な要素もはらんでいます。
 受精卵研究所では、弊社のと畜場から卵巣を採取して体外胚を生産しています。これらの体外胚を参画酪農家へ提供し、鹿児島県酪農業協同組合の授精師が移植を行い、生まれた子牛を約1週齢で買い取り、専門の預託農家へ導入しています。これらの生産和牛は登録を取得することなく、自社関連預託先で育成・一貫肥育を行います。酪農家は和牛子牛販売による収入補填ができ、スターゼンは本来廃棄される卵巣の有効活用により和牛肥育もと牛の生産コストの低減につながるので、お互いにメリットのあるスキームになっています。

胚?

 研究所のスタッフは獣医師1名と授精師2名で構成されており、週に1回12頭分の卵巣から約120個の卵子を採取しています。体外受精-体外培養を経て生産した体外胚を月平均20頭前後移植しており、受胎率は約30%です。将来的には1頭の卵巣から2個以上の受精卵を生産し、受胎率50%を目標に掲げています。

橋元さん

 私は農業高校を卒業後、北海道にある全農ET研究所の繁殖義塾で2年間研修を行いました。受精卵生産の業務に興味があり、2022年度から鹿児島にある受精卵研究所へ入社しました。鹿児島県家畜保健所の指導は他県とは異なり、体外胚生産の免許を有する人工授精師のみが卵巣採取からの体外受精卵の生産工程を許されているため、当該免許を取得するために参加しました。
 受講生相互の情報交換や手技についての話し合いを行うことができてとても有意義な講習会になりました。弊社の方法とは異なる培養方法での体外受精卵生産などを知ることができました。受胎率向上に向けた研究はまだまだあるのだと分かり、モチベーションが上がりました。今後とも、と体由来受精卵の生産率や受胎率を生体由来に近づけるような研究を行い、お世話になっている農家さんに少しでも貢献できる技術を提供していきたいと考えています。また、講習会を通して知り合った各県の方達と情報交換をして日本の胚移植業界にも貢献しようと考えています。  

橋元さん

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