学生レポート
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在日米陸軍基地・キャンプ座間内の動物病院実習を終えて

「在日米陸軍基地・キャンプ座間内の動物病院実習を終えて」

獣医学科 6年次  戸上  絵理

私は8月19日から23日までの5日間、6年次の小動物病院実習の一環として米陸軍基地内の動物病院に実習に行きました。

クラスの友人たちが自宅周辺の動物病院で実習を行う中、私は片道1時間半かけて電車を乗り継いで神奈川県座間市にあるキャンプ座間の動物病院で実習を行いました。この動物病院は軍人やその家族の方々が飼育するイヌやネコの治療や疾病予防を対象としたクリニックです。また、軍用犬の処置を行う事もあるそうです。

私が米軍基地内での実習を希望したのは、英語での獣医療行為を体験したかったことと、在日米軍基地がどのような場所なのかを自分の目で見てみたい、と思ったからです。そのように考えていた頃、尊敬する先輩に頂いた「学生であるということはそれだけで特権。学生のうちにしかできないことをやった方が良い」というアドバイスを思い出しました。

私は、2012年に米国オレゴン州で実習をする機会を頂きましたが、その際には飼い主のいない動物を対象としていたので、問診の様子を見る機会がありませんでした。現在本学では特に医療面接実習に力を入れており、獣医師-オーナー-動物の関係を考える機会があります。これをきっかけに、日本以外の国での獣医師の仕事ぶり、特に獣医師がクライアントとどのような関係を築いているのかということに関心を持ちました。

また、半年前に初めて履歴書を送ろうと思っていたころ、メディアでは盛んに日米安全保障について報道していました。私はアメリカに滞在している時と、日本のメディアが報道する日米関係の相違に日々疑問を感じていました。そして評論家の意見を聞いているだけでは多くは得られないと感じ、一体在日米陸軍とはどのようなところなのかを中立的な立場で自分の目で確かめてみたいと思いました。

つまり、私は2つの目標を掲げて今回の実習に臨みました。1つは、基地内の動物病院で実施される獣医療は、これまで私がみてきた日本の獣医療と相違があるのか、ということです。2つ目は在日米軍基地とはどのようなところで、そこで働いている人はどのような人なのか、ということです。

そして、多くの方々の協力を得て実習が実現できることになり、8月に初めてキャンプ座間内に入った時、基地内には立派な施設が数多くあり、ゴルフコースやショッピングセンターなども存在することに驚きました。歩道の幅や建物の雰囲気から、ゴミ箱やトイレの構造、そして自動販売機で売られている炭酸飲料に至るまで、馴染みのあるアメリカの街と似ていたため、ここは神奈川なのか、アメリカなのか、と混乱してしまいました。今考えると、そこは神奈川に存在するアメリカだったのです。

実習前、米軍の動物病院で実習すると周囲に伝えると、友人や家族は「米軍で実習って、匍匐前進の練習でもするの?」「怖い軍人さんがいるのでは?」などと言われました。実際には、緊張感をもって規律を順守しながらも、職場の人を思いやる優しい方々ばかりが働いていました。そしてスタッフは皆プロフェッショナルとしての自覚があり、無駄のない仕事ぶりを発揮すると同時に、クライアントや仕事場の仲間には明るく、親しみやすく接していたことが非常に印象的でした。

また、働いているスタッフの間での情報伝達の迅速さ、そして情報の詳細までも正確に伝えていることに驚きました。このことを感じたのは、実習が終了した瞬間に手渡して頂いた実習証明書を読んだ時です。私の実習証明書を執筆して下さったのは、日本地区公衆衛生コマンド司令官の獣医師の方で、毎日共に獣医療行為を行っていたスタッフの方々の責任者に当たります。その実習証明書を読むと、実習内容の詳細が網羅的に把握されており、私の細かな変化や態度に関して正確に、かつ網羅的に言及されていました。私は、動物病院の後ろの方の処置室で細々と行っていた治療や、病院外の施設で私が見てきたことまでを全て把握してくれていたことに仰天しました。

今回、最も印象に残っているのは実習生である私への扱いでした。私の実習の初日は、「この犬の歯周病の進行を段階的に評価するとしたら、あなたの見解は?」から始まり、「この犬の血小板が(減少ではなく)増加している理由を挙げてみて」、「次のクライアントの問診はあなたが主導でおこなって」などと、積極に獣医療に参加することが求められました。日本の病院では受け入れ先によっては「壁の華」、お掃除係、見学のみともなるという話もたくさん聞いていたので、実習生をこれほどスタッフの一員として接してくれることに私は大変驚き、感激しました。

そして、実習2日目、手術後に私が片付けをしていると、指導して下さっていた先生に、「実習生は片付けや掃除の仕方を学びに来ているのではない、貪欲に自分から働きかけて獣医療行為に参加しなさい」と言われました。私は実習生という立場上、片付けをするのは当然だと考えていたので衝撃を受けました。それと同時に、先生がおっしゃることが理論的に正しいことに気が付きました。

アメリカ社会では、何事に対しても、自分は今どう感じていてどうしたいのか、そして自分の主張が正しいということに常に自信と責任を持つことが求められます。例えば、患者の状態を獣医療チーム全体に伝える際には、「~だと思います」というと「なんとなくそう思うのか、それとも確実にそうなのかを明確にしてから伝えるように。不安があるならば自分で確認すること」と注意されます。そのような中、実習中に、エネルギーと自信に満ち溢れた動物看護師の方に“You are going to be a great veterinarian because you have confidence in what you do (君はいつも自信を持って行動をするから、将来は素晴らしい獣医師になる)”と言ってもらえました。このような社会の中で評価をして貰えたことは大きな自信に繋がり、実習中で最も嬉しかったことです。

そして、私の実習の目的の1つであった、日本と基地内の獣医療に差異はあるのか、という質問に対して明確な答えを導くことができました。それは言語や、治療法に関する細かい考え方等は異なることがありますが、獣医学の基盤となる科学的な知識や動物を治療する獣医師の姿勢は万国共通なのだということです。

このことにより、私が幼少期に海外の学校に転校し、不安を抱えていた際に「国や言語が異なっていても、算数/数学は万国共通だ」と喜んでいたことを思い出しました。

獣医療においては、獣医師によって治療法の好みや処置の細かな違いはありますが、最終的には、その方法で動物の状態が改善しているのか、また生活の質が向上しているかが最も大事なのだと教わり、大変勉強になりました。細かいことでなく、物事の全体像に焦点をあてることが成功の秘訣のようです。

この1週間を振り返り、私は今後どのような社会で、どのような人と接することになろうとも、確かな知識、自分の信念、自分と考え方の異なる人を尊重することを心がけ、柔軟な姿勢で生きていこうと思いました。

今回の実習を実現するためには、半年以上に渡る準備が必要でした。外部からの実習生を受け入れるということは米軍側としも前例が無いことだったので、実習の手続き交渉に関わって下さった方々は10人以上に上り、本当に沢山の方々に支えてもらいました。事前のミーティングやご挨拶を重ね、定期試験直前に先方に宛てた正式文書を何枚も自分で英訳するなど、苦労したこともありました。更に、多くの方々が関わって下さったため、実習を是非成功させたい、というプレッシャーを感じることもありましたが、最終的には無事に成功することができて本当に良かったです。

この場を借りて本学キャリア支援センターの方々、独立行政法人駐留軍等労働者労務管理機構座間支部の方々、在日米陸軍基地管理本部日本人事事務所の方々、米陸軍公衆衛生部隊日本地域司令部の方々、キャンプ座間内動物病院のスタッフの方々に心より感謝申し上げたいと思います。

この実習で得たことは、獣医学の分野でも、それ以外の人生勉強という意味でも非常に多く、大変勉強になりました。そして何よりも、とても楽しい時間を過ごさせて頂きました。

本当にありがとうございました。