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【新着論文】動物実験におけるマウスの適切な麻酔薬の投与量はどのようにして決まるの?― 動物福祉に配慮した適正な動物実験を行っていくために ―

論 文 名:
Recommended doses of medetomidine-midazolam-butorphanol with atipamezole for preventing hypothermia in mice
和訳)マウスにおける3種混合麻酔による体温低下の緩和に配慮した麻酔薬・拮抗薬用量
著  者:
田代瑞穂、藤平篤志
日本獣医生命科学大学応用生命科学部動物科学科実験動物学教室
掲載雑誌:
The Journal of Veterinary Medical Science, 2022 Mar 84: 445-453.
The Japanese Society of Veterinary Science
Open Access
doi: 10.1292/jvms.21-0479.

研究内容:
 動物実験において、「麻酔」は動物に対する苦痛を最小限に抑えるためにも欠かせない処置です。動物実験の基本理念である「3Rsの原則;Replacement(代替),Reduction(減数), Refinement(苦痛軽減)」は国内法である動物の愛護及び管理に関する法律(動愛法)の41条に概念が記載されています。その動愛法の中でも「(動物を科学上の利用に供する場合には、)苦痛を与えない方法によってしなければならない」との表現でRefinementは義務となっており、適切な麻酔使用は動物実験を行う研究者や技術者にとって必須のスキルと言えます。今回は、実験動物で最も使用数の多いマウスに対する3種混合注射麻酔薬(MMB)の各薬剤の適切な投与量(構成比率)に関する研究論文を紹介します。現在、MMBはマウスの注射麻酔薬として使用されていますが、その副作用として体温低下が挙げられます。私たちのこれまでの研究から、MMBによる体温低下を防ぐには5時間以上の保温処置を要することが示されています(Tashiro M.et al. 2020. J. Vet. Med. Sci. 82: 1757-1762.)。しかしながら、5時間以上の保温処置は実現可能ではある一方、保温処置を継続させるための設備が不十分なことや、機器の安全管理上の問題から夜間の保温処置が困難であるといった課題が学会発表の際に研究者や技術者から指摘されました。そこで、本研究ではMMBの投与量を従来用量から調整することで、保温処置時間の短縮を試みました。その結果、MMBによる体温低下の主な原因薬剤成分を明らかにするともに原因となる薬剤の用量を減らし、代わりに他の2剤を増やしたMMB用量は、従来用量と遜色ない麻酔作用で体温低下の副作用も少なく、従来必要とされていた5時間の保温処置時間から2時間まで短縮することが可能であることを示しました。
 本論文の内容は実験動物関連学会で研究者および技術者から製薬関連企業など創薬研究の現場でも対応しやすい麻酔法であると評価を受けています。

■研究者情報

藤平 篤志(応用生命科学部 動物科学科 実験動物学教室・教授)

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