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【新着論文】ベラプロストナトリウムは犬の肺高血圧症に対する新たな治療選択肢になる

論 文 名:
Beraprost Sodium for Pulmonary Hypertension in Dogs: Effect on Hemodynamics and Cardiac Function
和訳)犬の肺高血圧症に対するベラプロストナトリウム:血行動態および心機能に及ぼす効果
著  者:
鈴木 亮平1)、湯地 勇之輔1)、齊藤 尭大1)、康村 裕堯1)、手嶋 隆洋1)、松本 浩毅1)、小山 秀一
1)日本獣医生命科学大学獣医学部獣医学科・獣医内科学研究室
掲載雑誌:
Animals, 2022 12 (16): 2078.
MDPI
doi: 10.3390/ani12162078.
研究内容:
 肺高血圧症(PH)は、肺動脈圧や肺血管抵抗の上昇を定義とする難治性疾患です。獣医学領域におけるPHは、様々な疾患に関連して遭遇する可能性があり、犬で最も一般的な心疾患である左心疾患に続発する『後毛細血管性PH』と、肺動脈原発性疾患に加えて、呼吸器疾患、寄生虫疾患(フィラリア症など)、腫瘍性疾患などに起因する『前毛細血管性PH』に分類されます。現在、本疾患の治療薬としてホスホジエステラーゼ-5阻害薬(シルデナフィルなど)を使用することが一般的ですが、我が国では入手ルートの複雑さや高価な薬剤であることが原因で、使用可能な状況は限られています。さらに、後毛細血管性PHのヒト患者において、シルデナフィルの使用により左心疾患が増悪するリスクがあることが報告されているため、後毛細血管性PHへのシルデナフィルの使用は慎重投与とされています。ベラプロストナトリウム(BPS)は、経口プロスタサイクリン製剤であり、血管内皮細胞保護作用、肺・全身血管拡張作用、抗炎症作用、抗血小板作用を有するため、医学領域においてPHの治療薬として一般的に使用されています。我々は過去に慢性PHモデル犬を作製し、PH病態に対するBPSの有効性を実証しました。本研究では、実際の肺高血圧症の臨床症例に対してBPSの有用性を検証しました。
 本研究では、肺高血圧症と臨床診断した犬16頭(後毛細血管性PH:8頭、前毛細血管性PH:8頭)に対して、過去の報告で有効性を確認した15 µg/kgのBPSを1週間以上1日2回で継続投与し、投与前後で心エコー図検査を含む各種検査を実施しました。心エコー図検査では、肺動脈圧を反映する三尖弁逆流速度に加えて、BPSの肺および全身血管拡張作用を反映する指標として肺および全身血管抵抗を算出しました。さらに、詳細な心機能指標として、Two-dimensional speckle tracking echocardiography法による左心室および右心室の心筋ストレインを測定しました。
 本研究において、PHの原因に関わらず、15 µg/kgのBPSは三尖弁逆流速度や肺血管抵抗を有意に低下させ、右心室ストレインに基づく右心機能を有意に改善させました。さらに、後毛細血管性PH犬では、BPS投与により全身血管抵抗の低下を認め、左心疾患を増悪させることなく、左心機能の改善を認めました。いずれのPH犬もBPS投与に伴う有害事象(低血圧、止血異常など)を認めませんでした。
 本研究結果は、過去のPHモデル犬を用いた結果と同様に、BPSがPHに罹患した犬の治療薬として有効であることを実証しました。今後、より多くの症例を集積した大規模研究が期待されます。

■研究者情報

鈴木 亮平(獣医学部 獣医学科 獣医内科学研究室・講師)

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